|
動物にとって嗅覚は個体の生存に重要な感覚であるが、その脳内回路機能は不明な点が多い。特に、嗅皮質の機能はほとんどわかっていない。
Tenia Tecta（TT）の機能を明らかにするため、匂いを用いたGo/No-go学習系を新たに導入した。これにより、行動状態を細かく定義し、各行動状態におけるTTの応答様式を検討した。予想されたとおり、匂いを嗅ぐ時や報酬を得た時に応答するニューロンを発見した。また、それ以外に、匂いポートに鼻を入れた時や、報酬ポートへの移動、報酬期待時など様々な行動状態に対応して特異的に応答するニューロンを発見した。さらに、順行性、逆行性トレーシングを行い、TTの解剖学的特徴を明らかにした。TTからの出力は嗅球や梨状皮質など、嗅覚系領域と相互に接続していることが分かった。さらに、TTは内側前頭前野からの直接入力を受けることもわかった。これらの結果は、内側前頭前野からの様々な行動状態の情報がtop-downでTTに入力されていることを示唆する。
嗅皮質Ｘの解剖学的特徴についてさらに研究を進めた。詳細なトレーシングの結果から、嗅皮質Ｘは前嗅核のすぐ腹側、側坐核の吻側、前梨状皮質、嗅結節に囲まれた領域に存在する核であることが分かり、Ventral Olfactory Nucleus (VON)と名付けた。VONニューロンの多くはGAD65/67陽性で、抑制性の細胞であるが、側坐核のマーカーであるDARPP32は陰性であった。また、嗅球から直接入力を受け、視床下部外側部に出力することを確かめた。さらにVONニューロンは、梨状皮質など他の嗅皮質領域から入力を受けるばかりでなく、内側前頭前野や眼窩前頭皮質などからも直接入力を受けることが分かった。また、光遺伝学的手法と電気生理学的手法を用いて、視床下部外側部に投射するVONニューロンの性質を調べる実験を継続遂行中である。
|
