本研究課題では、発達期の大脳皮質第5層gap junction (GJ) ネットワークを詳細に解析した。第5層の2種類の主要な興奮性細胞であるsubcerebral projection neuron(SCPN)とcallosal projection neuron(CPN)は、それぞれ①同じ種類の細胞と選択的に結合する、②近傍に位置するおよそ半数もの同種の細胞と結合する、③脳表に対し垂直に位置する細胞と結合しやすい、というGJ結合性を持っていた。このGJ結合特異性は、大脳皮質の機能単位だと考えられるマイクロカラム構造の形態的特徴と酷似していることから、マイクロカラム構造の有力な形成メカニズムであるとして他の実験結果とともに投稿し、サイエンス誌に2017年11月に受理された。また、GJネットワークがもたらす電気的結合と同期発火が顕著に遅いことを明らかにし、Neuroscience誌に投稿、2019年2月に受理された。 次のステップとして、GJネットワークを人為的に操作したマウスの脳を調べた。GJを構成するコネキシンのドミナント・ネガティブ変異体を強制発現させる方法で、第5層のGJ結合を顕著に阻害できることを確かめた後、この操作を行ったマウスでSCPNとCPNの分布を調べたところ、目立った変化は見られなかった。この結果は、用いた変異体コネキシンが、電気的結合は阻害するものの接着因子としての機能は維持されるものであったため、細胞分布パターンには影響が見られなかった可能性が考えられる。今後、SCPNとCPNが発現するコネキシンサブタイプを特定し、その発現制御を行うことで、細胞分布パターン形成への関与を調べる。一方、上記の変異体コネキシンは、電気的結合阻害によって同期活動を抑制するため、活動依存的な発達とシナプス形成への影響は十分に考えられ、今後の詳細な解析が必要である。
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