本研究では、独自に開発した組織透明化法SeeDB2と超解像顕微鏡を組み合わせたアプローチにより、神経細胞の全体に亘ってシナプス分布を解析するためのパイプラインを確立した。実際にこの手法を用いて大脳皮質体性感覚野5層錐体細胞におけるスパイン分布(=興奮性シナプス)の解析を行った。その結果、スパインは樹状突起全体に亘って一様に分布しているわけではなく、大きな偏りを持って分布していることが判明した。5層錐体細胞においては、basal dendriteでは大きな偏りが見られないものの、apical dendriteでは分布が大きく偏っており、第一分岐点付近で最も分布密度が高くなることが判明した。このような傾向は2/3層錐体細胞では見られないことが判明した。次にこのような分布が発達過程でどのように確立されるのかについて解析を行った。その結果、basal dendriteではP14をピークにスパイン密度の減少が見られたのに対し、apical dendriteではP14以降もスパイン密度が上昇し続けることが判明した。6ヶ月齢、24ヶ月齢マウスにおいても、スパイン密度の減少は全く認められなかった。さらに、NMDAR必須サブユニットNR1のノックアウトニューロンにおいてスパイン分布を解析したところ、basal dendriteの密度分布には異常が見られなかったが、apical dendriteにおけるスパイン密度上昇が阻害されていることが判明した。この結果は、basal dendriteとapical dendriteでスパイン密度制御機構が異なることを示唆している。 従来、スパイン密度は幼若期に上昇した後、思春期に減少するというのが定説あったが、これは必ずしも正しくなく、樹状突起コンパートメントによって異なる制御が存在することが明らかなった。
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