本研究は、マウス脳を霊長類型脳に変換する試みを通して、脳の進化メカニズム解明の糸口を得る試みである。霊長類での高次機能の担い手は、大脳新皮質の飛躍的なニューロン数の増加であると推察されるが、実証はされていない。代表者は転写抑制因子RP58の欠損により、マウス新皮質において、霊長類で特徴的な、細胞増殖層(OSVZ)が見出した。RP58の欠損は、細胞周期離脱を遅延させることから、「細胞周期離脱を抑制することが、神経前駆細胞の著明な増加を惹起する」という仮説をたて検証を試みた。さらに、脳機能を解析することにより、「大脳皮質ニューロン数の増加が、脳機能向上をもたらす」という仮説の検証を試みた。 EmxCre/RP58floxホモは大脳皮質は、RP58が全く欠落するため、細胞移動、成熟ができない。そこで、子宮内エレクトロポレーションでRP58を補充したところ、多数のニューロンが脳表に移動した。しかし、子宮内エレクトロポレーションでは、一部の細胞にしか補充できず、行動解析には不十分であった。その後、ウイルスベクターによる補充も試みたが、これまでのところ、導入効率の点で、行動解析には不十分であり、人為的な遺伝子発現制御系を用いるべきと判断した。そこで、適当なタイミングでRP58の発現を停止/再開するために、人為的な遺伝子の発現制御ができるFASTシステムを用いることにし、トランスサイレンサー(tTS)を発現するマウス(actin-tTSマウス)を導入した。そしてtTSの結合部位(tetO)をRP58の上流に持つ、tetO-RP58マウスを二系統作製し交配を開始した。マウスは出生後、数日で脳の発達不全がみられた。今後、TTSの機能を阻害するためにドキシサイクリンの餌を出生直前から投与し、RP58の補充を試みる。その結果、異常増殖した神経前駆細胞の成熟により脳拡大が期待される。
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