研究課題/領域番号 |
16K14571
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
柿田 明美 新潟大学, 脳研究所, 教授 (80281012)
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研究分担者 |
北浦 弘樹 新潟大学, 脳研究所, 助教 (80401769)
清水 宏 新潟大学, 脳研究所, 助教 (40608767)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 神経病理学 / 透明化 / 3次元解析 / てんかん / 神経細胞配列 |
研究実績の概要 |
てんかん外科病理診断をしていると、”薄切した通常の組織標本の観察では病変を正しく評価できないのではないか”、と思われる症例を少なからず経験する。皮質異形成における軽微な細胞配列の乱れを評価する場合などがこれにあたる。本研究は、最近報告された、脳を透明化する革新的技術を応用し、神経細胞の配列を3次元で捉える新規標本観察法を創出し、てんかん原性脳病巣における病態形成基盤を明らかにすることを目的とする。本研究が目指す方法論の意義は、てんかん診療上のそれにとどまらない。神経変性疾患や脳腫瘍などを対象とする神経病理学において、イノベーションを創出する可能性がある。本研究はそのフィージビリティースタディーと位置付けられるものである。 内側側頭葉てんかん患者から採取された側頭葉外側新皮質を検索対象とし、以下の研究を実施した。(i) <CUBIC試薬を用いて脳組織の透明化を図る> 透明化試薬最新プロトコールでヒト脳組織をどの程度透明化することが出来るかを検証した。その際、脳組織をホルマリンで固定する時間を調整した。(ii) <細胞標識法> ヒト脳組織における自家蛍光の強さを逆手にとって、自家蛍光発色構造物を捉え、次いでこれを化学的に消退させる方法を見出した。こうした組織ブロックを薄切し、HE, K-B染色を行っても、顕微鏡観察に堪える切片が得られることを確認した。(iii) <免疫組織化学染色> 透明化ブロックに免疫組織化学染色を施し、抗体が浸透し、蛍光分子を標識した二次抗体で可視化できる条件検定を進めた。(iv) <膨大なデジタルイメージの情報処理法の検定>デジタル画像情報処理方法についての検証を行った。観察する体積が大きい程、また画質が精密であればあるほど、これまでになかった第両々の生データが得られることとなる。この解析方法を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、脳を構成する細胞や構造物(神経細胞、グリア細胞、血管等)の配列や存在様式を3次元で捉える新規標本観察法を確立し、脳神経病態の形成基盤を明らかにすることを目的とする。このことは、信頼性の高い病理診断指標を策定することでもあり、また同時に、生理学や脳科学から得られる脳機能に関する知見を形態学的側面から理解する強力なツールともなるであろう。そこで、本フィージビリティー研究では、方法論の確立を目指すものである。 組織ダメージを極力抑えつつ励起光を深部にまで到達させる、ヒト脳組織専用の透明化プロトコールを開発する必要性がある。同時に、透明化した脳組織から情報をどう引き出すか、つまり細胞標識法とイメージの取得法についても検証を進めた。どちらもまだ最終段階に至ってはいないものの、これまでに報告された試薬とは比べ物にならない、ヒト脳組織専用の透明化プロトコールを開発中である。また、別予算で、シート照明顕微鏡(Olympus, MVX10-LS:国内第1号機)を購入することができ、フル稼働でイメージングを行う実験環境が整った。そうしたことから、研究計画は概ね順調に進展している、と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(i) ヒト脳組織専用の透明化プロトコールを確立する。現在のCUBICプロトコールを元に、高い脂質溶解性と内在性色素の脱色能を備えたあみのアルコール溶剤を調整する。(ii) 従来のHE染色に相当する一般染色法を開発し、内側側頭葉てんかん患者の外側側頭葉皮質における神経細胞の配列状況を立体的に捉える。各種蛍光分子やトレーサーを改良し、すべての細胞や構造を多色蛍光で標識する染色法の開発を行う。(iii) 3次元免疫染色法を開発する。現在までの実験結果から、CUBIC処理後にある程度抗体を浸透させることができた。これをcmオーダーで可能となる新規プロトコールを確立する。(iv) ヒト脳の3Dイメージング法を開発する。シート照明顕微鏡を用い、3Dイメージングを進める。デジタル画像情報処理を効率よく行うアルゴリズムを開発する。 上記の研究推進方策を進め、ヒト脳組織の立体的観察法を確立する。脳病態形成基盤としての形態学的観察法の意義を検証する。
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