研究課題/領域番号 |
16K14572
|
研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
内原 俊記 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, 副参事研究員 (10223570)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 免疫電顕 / Quantum Dot / CLEM / tau / EDX |
研究実績の概要 |
免疫標識した同一対象の蛍光像と免疫電顕像を直接比較する新技術:Quantum Dot(QD)はセレン(Se)とカドミウム(Cd)からなるnanocrystal で電子密度が高くhaloをもつ粒子として電顕で確認できる一方、蛍光を発するため通常の蛍光顕微鏡でも局在を確認できる。このQD を免疫標識に用いると病変の蛍光像が観察でき、同一標本の同一部位をそのまま電顕標本として再包埋・薄切すれば、同一病変の免疫電顕像としても直接比較できるという画期的な技法を我々は開発した。しかし、これまで免疫電顕にもちいられてきた金コロイド標識に比して QDは電子密度が低く、コントラストに乏しい点が弱点であった。 Energy-dispersive X-ray analysis (EDX)は電顕超薄切片に電子ビームをあて、対象元素のエネルギー順位に対応したピークに対応する原子を質的に同定できる。我々は 免疫標識にもちいたQDを 標本上でEDX解析し (Am J Pathol 2012; 180:4:1394-7, 2012年日本神経病理学会ポスター賞)、その成分であるSe/Cdを同定する新たな方法を発展させ、その分布を画像化する EDX mappingを世界に先駆けて我々は完成した (Acta Neuropathol Comm 2014;2:161- 2014年日本神経病理学会ポスター賞)。 Gray scaleと相場が決まっている免疫電顕像から標識QDのみを highlightできるこの手法は、蛍光像と対比することで、光顕レベルから分子レベルまで seamlessに連続した scaleで対象を観察できる画期的な手法となる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
EDX mappingによるdiaminobenzidine (DAB)+Ni標識をとらえる新技術:現在でもヒト疾患脳の免疫電顕の多くはDAB標識によるものが多いが、免疫標識と背景構造の区別は容易でない。DABにNiを加えることで、標識の感度は上昇する。このNiの分布を電顕標本上でとらえる為に、EDX mappingを行うと、背景構造からDAB標識のみを操作的に抽出できる。この手法を高齢カニクイザル脳のタウ病変に応用し、その超微形態は進行性核上性麻痺に類似することを初めて明らかにした (Acta Neuropathol Comm 2016;4:118-)。簡便で自由度や信頼性も高いこの方法はヒト脳から実験動物まで広汎に応用可能である。
二重免疫電顕の試み:大きさの異なるQDは発する蛍光の波長と粒子の大きさが異なり、理論的には光顕、電顕の両者で区別が可能である。さまざまな組み合わせを試みているが、QDの大きさや形の区別は相対的で、差があっても峻別可能な程に明らかでない場合も多い。より差の明らかな、金コロイド標識とQDの二重染色等を現在試行中で、同一電顕標本内での複数のエピトープと超微構造との関係を明らかにする技術を完成させる。
|
今後の研究の推進方策 |
二重免疫電顕法の確立:現在開発中の二重免疫電顕法を確立する。 QD標識をまず蛍光でとらえる我々の手法は、多様な病変が混在する疾患脳でこれまでにない威力を発揮する。従来の免疫電顕は無作為に多数の病変を観察し、光学顕微鏡との類似性を推察するに留まっていた。これに対し我々の方法は、先ずは対象病変を光顕的に同定して病変の位置や概観をとらえた上で、その超微形態と直接比較することができる。免疫標識の程度が光学顕微鏡(蛍光)観察の段階で評価できるので、より適切に標識された病変に絞った検索が可能で、電顕標本作製の手間を最低限にとどめることも可能である。最後の電顕観察まで標本作製過程の正否が分からなかった従来の免疫電顕法にくらべ、標本作製の無駄を最小限に留めることができる。 二重免疫電顕法による病態解明:我々が開発中の二重免疫電顕法は新たな技術だが、それを活かした病態解明が最終的な研究目標である。アルツハイマー病脳を特徴づけるタウは繰り返し部分が3回の3Rtauと4回の4Rtauがあり、主に早期に蓄積する4Rtauが病変の進行に伴い3Rtauに置き換わっていくように見えることを我々は報告した (Acta Neuropathol 2013;125:565-79)。相互に入れ替わるはずのない3Rと4Rがどのようにタウ陽性線維を構成しているかが焦眉の疑問だが、我々が開発中の二重免疫電顕法はそれに対する直接的な答えを与えてくれると期待できる。複数分子が超微形態とどのように関連しているかはアルツハイマー病に限らず病態解明の本質に迫る重要な視点だが、これまでほとんど明らかにされていない。我々が開発中の方法は生理的、病理的変化をこれまでにない視点から明らかにできると期待できる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は電顕標本の作製を中心的に行い、通常の電顕観察を行った。当初予定していた走査電顕、元素分析に要する委託費用を使用するに至っていない。
|
次年度使用額の使用計画 |
走査電顕、元素分析に要する費用を平成29年度に使用する予定。成果を国際学会を含む学会や、学術論文として発表する予定。
|