脳微小出血は分布により病理学的背景が異なる。我々は齲蝕原性細菌であるStreptococcus mutansのうちコラーゲン結合蛋白(Cnm)を発現するcnm遺伝子陽性Streptococcus mutans(cnm陽性S. mutans)の口腔内保有は、脳微小出血と相関することを過去に報告した。本研究では、cnm陽性S. mutansと脳微小出血の分布との関連を検討した。前向きコホート研究に登録した202人のうち、脳血管障害の急性期に3 tesla MRIを撮像した165名を対象とした。T2*強調画像で評価した微小脳出血の分布により深部/脳表/混合の3群に分け、「無」群を含む4群間のcnm陽性S. mutans保有率の違いをANOVA解析で検討した。31名(18.8%)にcnm陽性S. mutansを検出した。cnm陽性S. mutansの保有率は深部群16名(44%)、脳表群0名(9%) 、混合群9名(25%)、無群 6名(7.3%)と有意差がみられた(p<0.001)。cnm陽性S. mutansの保有は深部微小出血の存在と関連した。この結果は、脳微小出血の背景疾患として、高血圧等の生活習慣病のみならず、口腔内細菌という未知の環境要因が関与することを強く示唆している。さらに、コラーゲン接着因子を発現する特定の細菌が脳微小出血と関連することは、今後脳出血の予防戦略を考える上で新たな標的が明らかとなったことを意味している。
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