研究実績の概要 |
脳の発生、病態、再生過程において、細胞外基質や増殖因子などが特定の場に集積して機能する微小環境が重要な役割を担っている。例えば、脳血管網は、血管表面に局在する因子や分泌物を介して、遊走ニューロンの足場や神経幹細胞の維持機能を担っている。近年、人工的に微小環境を作製できる生体適合性材料が注目を浴びている。申請者らはこれまでに、血管表面に存在する細胞外基質タンパク質の1つラミニンを材料としてスポンジ形状の人工足場を作製し、損傷脳への移植で、ニューロンを損傷領域に配置させる技術を開発してきた(Ajioka et al., Biomaterials, 2011; Ajioka et al., Tissue Eng Part A, 2015)。また、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)をラミニンスポンジに配向結合させることで、血管新生能を付加した生体適合性材料を開発してきた(Oshikawa et al., Adv Healthc Mater, 2017)。しかしながら、スポンジ形状の人工足場はランダムな方向に成形したバイオマテリアルを移植するため、損傷領域へ効率よく遊走させることが困難という欠点がある。そこで本研究では、ニューロンの遊走方向、すなわち足場となるファイバー形成を人為的に操作でき、機能的な血管を導くことのできる生体適合性材料の要素技術開発を目的とした。本年度は、昨年度までに開発した低pHで溶液状態となり、生理的pHでファイバー状に構造変化するペプチドタイプの生体適合性材料に、光反応性タンパク質の活性化ドメインを挿入することで、光照射後に分子集合体構造が変化する生体適合性材料を作製した。さらに、VEGFをファイバー状に配向結合させることで、血管新生を促進する機能を付加した。これら新たに開発した生体適合性材料の機能は、マウス中大脳動脈遠位部梗塞モデルにて評価した。
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