研究課題/領域番号 |
16K14587
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
川原 学 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (70468700)
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研究分担者 |
小川 英彦 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (20339089)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 着床 / ミトコンドリアゲノム / 核ゲノム / 哺乳類 / 顕微操作 |
研究実績の概要 |
細胞の生殺与奪の権を握る細胞小器官ミトコンドリアは、全ての細胞に存在しており哺乳類受精卵の正常な発生にも重要な役割を果たしている。本研究では、核および細胞質移植技術を用いて核-ミトコンドリア間の連携が哺乳類胚の着床成立にとってどのような役割を果たすのかを明らかにする。申請者らは最近の研究において、マウス胚にウシ胚のミトコンドリアを導入した異種ミトコンドリアヘテロプラスミー胚を作出し、その胚が発生遅延を起こし、かつ、着床が完全に阻害されることを見出した(Kawahara et al., Sci Rep, 2015)。このことから、哺乳類胚が正常に発生し着床に至るためには、胚ゲノムとミトコンドリアゲノムの種の一致性が重要であることが推察された。 これらの予備的な知見を踏まえて、胚盤胞期胚のうち将来胎盤を形成する極栄養膜細胞から樹立される幹細胞(Tanaka et al., Science, 1998)、TS細胞をmtB-M胚で作製して栄養膜細胞の分化能を検証すべく、ウシミトコンドリアマウス胚(mtB-M胚)のフィーダーへのアウトグロース能を明らかにすることを本年度では集中的に取り組んだ。その結果、対照区の通常胚のアウトグロース成立率には及ばないものの、4割のmtB-M胚でアウトグロースすることを確かめた。さらに、胚盤胞期におけるトロホブラストマーカータンパク質であるCDX2発現を調べたところ、mtB-M胚でも対照区の通常胚同様の栄養外胚葉特異的な発現が確かめられた。これらのことから、着床不全を示すmtB-M胚でも通常胚同様にCDX2発現を示すトロホブラストが形成されること、および、TS細胞樹立に必須なアウトグロース能を有することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績概要で示したように、当初計画で解析の実行が不確定であったウシミトコンドリア導入マウス胚(mtB-M胚)における、栄養膜幹細胞(TS細胞)樹立の前提条件となる、アウトグロース能とCDX2発現およびトロホブラスト局在が証明され次年度における研究頓挫の可能性は完全に払拭された。次年度では、いよいよTS細胞樹立に挑み細胞レベルにおけるmtB-M胚のトロホブラスト機能を探ることができる。すでに、TS細胞樹立系に関しては分担研究者である東京農業大学の小川英彦教授との連携から技術的なサポートは受けて、通常のTS細胞樹立については全く問題が無い。したがって、研究の進行は完全に当初計画通りに進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、まずmtB-M胚からのTS細胞樹立を第一に行う。次いで、mtB-M胚由来TS細胞の形態、増殖などの外的な評価に加え、トロホブラストマーカーとなるCDX2、ELF5、EOMESなどの遺伝子発現およびタンパク質発現について明らかにする。その後、分化誘導と分化細胞系譜の確認を各種マーカー遺伝子およびタンパク質発現に基づいて決定し、対照となる通常胚由来TS細胞と上記項目を比較精査する。進行状況で説明したように、すでに解析の準備は万全であり着手している。 また、mtB-M胚の作製方法も洗練化し、体細胞由来ミトコンドリアの分取と胚への注入系の構築も整えた。これにより、移植ミトコンドリアをウシあるいはマウスと無制限に構築することができ、さらに胚由来と体細胞由来ミトコンドリアの違いも評価することが可能になり当初計画よりも研究レベルを深化させることが可能となった。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ全額使用し9円未使用額となった。翌年度の物品購入に充てる。
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次年度使用額の使用計画 |
ほぼ全額使用し9円未使用額となった。翌年度の物品購入に充てる。
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