研究課題
ミトコンドリアはあらゆる真核細胞に存在し、核DNAとは別の独自のDNAを持つ。そして、核DNAと比較して種間では極めて近似した構造をもつ。しかし、マウス胚にウシ由来の異種ミトコンドリアを混入させたウシ-マウスミトコンドリアヘテロプラスミー胚 (mtB-M胚) を胚移植しても、着床痕もみられず着床能は完全に欠落している。本研究では、mtB-M胚の栄養膜幹細胞 (TS細胞) 形成能を調べ、mtB-M胚の着床不全の原因を探った。ICRマウス卵母細胞を体外受精に供し前核期胚にウシ前核期胚由来のミトコンドリア領域を細胞融合法によって移植し、mtB-M胚を作出した。免疫染色によりOCT4およびCDX2タンパク質局在を調べた。mtB-M胚は体外培養に供し、胚盤胞期におけるアポトーシスを起こした細胞をTUNEL法により検出した。また、分化関連遺伝子であるOct34およびCdx2、アポトーシス関連遺伝子であるBax、Bcl2、Caspase3、7および9の発現を定量PCRによって解析した。コントロール区としてIVF区およびマウス前核期胚に他個体由来のマウスミトコンドリアを導入したmtM-M区を設定した。さらに、mtB-M胚からTS細胞樹立を試みた。コントロール区にはIVF胚を用いた。mtB-M胚では、OCT4およびCDX2タンパク質の局在は通常胚と同様であった。しかし、mtB-M胚では栄養外胚葉付近においてTUNEL陽性細胞が観察され、Bax、Caspase3,7および9の発現レベルが有意に増加していた。TS細胞の樹立試験では、mtB-M胚では細胞の樹立の指標である継代5回目までコロニーを維持することができなかった。以上より、mtB-M胚では栄養膜細胞の機能が維持できないことが判明し、これが着床不全の原因の一つと考えられた。
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