研究課題/領域番号 |
16K14592
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
田渕 克彦 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (20546767)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | CRISPR/Cas9 / 子宮内エレクトロポレーション / beta-アクチン |
研究実績の概要 |
前年度で、CRISPR/Cas9システムと子宮内エレクトロポレーション法を組み合わせて、大脳皮質単一ニューロン特異的に、βアクチン遺伝子にEGFPをノックインする方法の開発に成功したが、ノックイン効率は、RFPで標識される全遺伝子導入ニューロンのうち、数%程度だった。本研究は、シナプス接着因子をはじめとする自閉症関連遺伝子に、ヒト患者から発見された変異を導入し、パッチクランプ法などを用いて、単一ニューロンレベルで、遺伝子変異の効果を解析する技術の開発を目指している。ヒト疾患変異のみをクリーンな形で導入する場合、EGFPなどにより、ノックインの成功の有無を見分けることができないため、ノックインの成功の有無は、パッチクランプ法により電気的活動を記録した後、パッチピペットからmRNAを吸引してgenotypingをし、確定することになる。このため、ノックイン効率が数%程度では、解析したもののうち大部分がノックインされていないことになり、実際の実験に用いるには非現実的である。このため、当年度では、ノックイン効率を高めるための技術開発に重点的に取り組んだ。昨年度は、EGFPをβアクチン遺伝子の翻訳開始点直後にノックインするためのドナーベクターとして、相同領域を両側とも0.5kbで行っていたが、相同領域の長さを延長し、1.6kbと2kbにしたところ、遺伝子導入ニューロンにおけるノックインされたニューロンの割合は、10%以上に上昇した。この条件で、相同組み換え効率を上げることが知られている、Rad51タンパク質をコードする遺伝子コンストラクトを同時に導入したところ、ノックイン効率は20%を超えた。これらは、胎生15日目にエレクトロポレーション法をしたものだが、これをさらに幼弱な時期として、胎生13日目にエレクトロポレーションを行ったところ、ノックイン効率が48%まで上昇した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術は、幅広い分野で活用されるようになってきており、様々な分野の研究者にとって、興味の対象となっている。この中で、遺伝子改変動物の交配を行わず、単一世代で、特定の細胞において遺伝子改変を行う技術は魅力的である。特に、脳のニューロンのような、非分裂細胞に特異的に遺伝子を導入し、遺伝子ノックインをするという研究は、世界でもわずかであり、我々のグループはパイオニアの一つである。この技術はいくつものハードルがあり、最も克服すべき共通の問題は、ノックイン効率が低いことである。平成29年度の研究で、我々は、遺伝子導入ニューロンのうち最大で約50%に達するノックイン導入効率を得ることができた。これは、これまで数%だったことに比べれば、飛躍的な進展である。これは、他の様々な遺伝子でも応用可能であり、当該分野の他の研究者への波及効果も高いと考えらる。一方、平成29年度で、βアクチン遺伝子以外の遺伝子についてもノックインを行い、機能解析をしようと計画していたが、そちらについてはあまり取り組まず、もっぱらノックイン効率を高める研究に重きを置いた。以上を総合して、平成29年度の研究はおおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に重点的に取り組んだ、子宮内エレクトロポレーションによる、マウス大脳皮質2/3層の錐体ニューロンでのβアクチン遺伝子へのEGFPのノックイン効率を高めた技術開発について、論文を作成する。必要なデータはおおむね出そろっているが、統計処理など、再現性を加味して慎重に行うために、子宮内エレクトロポレーションを繰り返し行いN数を重ね、完成度の高いデータを作成する。また、βアクチン以外の遺伝子についても、ノックインを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究開始後、比較的早期に子宮内エレクトロポレーション法とCRISPR/Cas9システムを組み合わせた、マウスの脳での遺伝子ノックインが成功し、これについては論文に発表することができた。一方、ノックイン効率が低いことが、今後、この技術を実用化していく上で最大の問題となるため、研究の中心を、ノックイン効率の向上にシフトした。平成29年度は、ノックイン効率を上げるための試行錯誤に専念したため、ここで確定した条件を、さらに解析のN数を増やして勢力的に仕上げの実験を平成30年度に行うことにしたため、平成30年度使用額が生じた。平成30年度は、マウスの飼育・維持費、導入遺伝子を生成するための分子生物学実験消耗品、形態学的解析消耗品、および印刷費に予算を使用する。
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