本研究は、実験動物「マウス」を用いて、特に皮下や内蔵の特定部位への脂肪細胞蓄積を制御する遺伝子群を同定し、それらの発現を人為的に操作することで、肥満症に繋がる脂肪蓄積を制御する方法論を確立することを目的としている。 本研究では、MSM/Ms系統(MSM)の染色体を一本ずつC57BL/6J(B6)系統の遺伝的背景に置換して樹立したコンソミック系統群を使用し、脂肪蓄積関連表現型を指標としたダブルコンソミック系統などの交配系統の作製を試みた。ダブルコンソミック系統の作製については、生殖腺周囲の内蔵脂肪蓄積量が多い染色体9番置換コンソミック系統を軸にして、これを当該脂肪蓄積量の少ない3番、11番および15番置換コンソミック系統を使用し、B6とMSMのゲノム多型マーカーによりモニタリングを行った。研究期間内に、目的とする3種類のダブルコンソミック系統のうち、2種の親系統が完成した。また、残りの1系統は、繁殖の困難性のため樹立が遅れたが、研究期間内にあと一歩で完成が見込めるところまで進展した。これ以外にも、コンソミック系統群から収集した部位別の脂肪蓄積量をはじめとした各種表現型情報や、臓器アーカイブを対象とした遺伝子発現解析や情報解析を行い、脂肪蓄積制御の系統間差に関与すると考えられる複数の候補遺伝子を確認した。その他、NGS解析等による解析に使用するための組織の収集と保管も進めた。2年間の研究期間では、残念ながら特定部位の脂肪蓄積の制御に関わる因子や、具体的なメカニズムの同定までは研究を進めることができなかった。しかし、特定部位の脂肪蓄積の制御に関わる候補因子群や、本研究で樹立した複数のコンソミック系統由来の解析系統群を活用して、今後は脂肪蓄積制御に関わる遺伝システムの解明が、より容易に進めることができるものと期待している。
|