研究実績の概要 |
長寿・がん化耐性齧歯類ハダカデバネズミ(Naked Mole-Rat, NMR)において、がん抑制遺伝子ARF(Alternative Reading Frame)の発現を抑制すると細胞老化が誘導される(ASIS, ARF suppression-induced senescence)。ヒトやマウスの細胞においてARFの発現を抑制した場合、細胞老化は誘導されず、むしろ増殖シグナルを抑制できなくなり、そのことを反映するように多くのがんで実際にARFの異常が報告されている。そのことからASISは、NMRのがん化耐性の原因である可能性が考えられ、ASISの誘導メカニズム解明のためにこれまで研究を行っている。先行研究からASISが、INK4aを含むINK4ファミリーやp21などのCIP/KIPキナーゼ非依存的であることが明らかとなっていた。また昨年度までに、ASISを誘導したサンプルからmRNA-sequencingを実施しており、その結果から、細胞老化の制御に極めて重要なシグナル伝達経路に、NMR種特異的な制御機構が存在している可能性を明らかにしていた。今年度は、Western Blottingおよびタンパク質のラベリング実験から、NMR種特異的なシグナル伝達制御機構が、ASISにおいて確かにみられることを確認した。今回明らかになったNMR種特異的なシグナル伝達制御は、細胞老化だけでなく、細胞のがん化や細胞死など、様々な現象に関わる可能性も考えられるものである。そこで、ASISの解析から明らかになったシグナル伝達制御機構が、例えばがん遺伝子の活性化の際に、どのように変動するのかを評価し、NMRの種特異的なシグナル伝達制御機構が、NMRのフェノタイプとどのような関わりをみせるのか、検討していく予定である。
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