研究課題/領域番号 |
16K14605
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大澤 毅 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (50567592)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | がん微小環境 / 低pH |
研究実績の概要 |
癌の悪性化には腫瘍微小環境が重要な役割を果たす。申請者は、低酸素・低栄養という腫瘍微小環境が癌の悪性化を促進することを報告してきた。また、低酸素の結果として腫瘍内はpH6.8まで低下することが知られているが、低pH環境における細胞応答メカニズムは未だ不明である。その理由として、細胞培養でpHを長時間安定的に保つことが難しいことがあげられる。そこで本研究は、新たに(1)低pH細胞培養法を樹立し、(2)低pH誘導転写因子や(3)低pH依存性の代謝経路の同定、さらに、(4)低pHによる癌の悪性化機構の解明を目的とし研究を行った。
本年度の研究成果として、(1)腫瘍内ではpH6.8まで低下するという報告をもとに、低pH培養としてpH6.8, 通常培養条件としてpH7.4を設定し、ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式及び実測値を用いて、CO2 5%下、37度で低pHを維持できる培地を調整した。低pH培養培地作成に用いる緩衝剤として、通常培養培地に様々な緩衝剤NaHCO3、HCl、乳酸の添加量を調節する事で培養培地のpHを6.8に調整し、CO2インキュベーター内で長期間安定的に低pHを持続することのできる培養系を樹立した。さらに(2)樹立した低pH培養系を用いて、RNA-Seqを用いた遺伝子発現解析、および、FAIRE-Seqを用いた転写モチーフ解析から低pHにおける転写制御因子としてSREBP2を同定し研究成果を学会報告および論文報告(Kondo et al. Cell Reports, 2017)した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究計画である (1)低pH培養法の樹立、および(2)低pHに誘導される転写因子の解明の2項目について研究を行ったが、(1)低pH培養法の樹立においては、24時間から72時間安定的に低pH(pH6.8)培養条件を維持できる培養系の樹立に成功し、低pH培養条件下での転写因子や代謝経路を同定するための詳細な解析を行うことが可能となった。また、(2)RNA-Seqによる標的遺伝子の同定やFAIRE-seqを用いた転写候補因子の予測から、低pHで誘導される転写因子としてSREBP2を見出しその機能解析まで進めることができた。さらに、本研究の成果として論文報告(Kondo et al. Cell Reports, 2017)まで行ったことから、本研究は概ね計画どおり順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として 29年度の研究計画は、(1)低pHにおける代謝経路の解明を行う予定である。低pH腫瘍微小環境は、低酸素で解糖系が亢進した「結果」の現象として考えられており、低pH依存的な転写・代謝機構は知られていない。平成29年度の研究計画では、低pH環境の模倣培養系を用いて、低pH誘導転写因子の下流標的代謝遺伝子群の同定、及び、その意義を低pH誘導転写因子に対するsiRNAを用いて検討する。また、(2)低pHを基軸とした癌悪性化機構の解明を行い新規癌治療標的候補の同定と治療法の開発につながる研究を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費、及び、海外旅費に使用予定であったが使用しなかったため
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次年度使用額の使用計画 |
物品費、及び、海外旅費に使用予定であったが使用予定である
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