研究課題
わが国において大腸癌は増加傾向にある。近年の癌研究の発展により大部分の癌は遺伝子異常を伴うことが判明した。しかし、このような癌に関連する遺伝子変異がどのように生じるのか、そのメカニズムは未だ十分に理解されていない。大腸癌の発生母地である正常な大腸粘膜においても既に遺伝子変異が生じていると仮説を立て、これをしらべることにより大腸発癌メカニズムの理解を向上させることを目的として本研究をおこなった。大腸癌患者、大腸ポリープ患者、大腸スクリーニング検査被験者からそれぞれ正常大腸粘膜を採取し、上皮の最小構成単位である陰窩を単離した。単離された陰窩の全エクソンシーケンスを行い遺伝子変異をしらべたところ、全ての陰窩において変異が検出された。陰窩に蓄積した遺伝子変異の数は年齢と正の相関を示し、正常大腸粘膜では加齢とともに遺伝子変異が蓄積することが判明した。また、この変異のパターンは近年の網羅的癌ゲノム解析において年齢関連の遺伝子変異パターンとして報告されたものと同一であった。大腸癌のリスクとして飲酒、喫煙、肥満などが知られているが、今回観察したコホートにおいてこれら大腸癌のリスク因子と陰窩に蓄積した遺伝子変異の数との間には明らかな相関は認められなかった。また、今回観察された遺伝子変異は癌化に関連する遺伝子変異として報告されたものはなく、細胞にとって無害な遺伝子変異と考えられた。本研究により癌に至る以前のヒト正常大腸粘膜において加齢と共に遺伝子変異が獲得されることが証明された。正常大腸粘膜において観察された遺伝子変異は癌化に寄与しない無害な変異であった。癌に関連する変異が偶然生じた場合にのみ、その細胞は腫瘍へと進化する可能性が生じると考えられた。今回得られた知見は大腸癌の発生基盤をゲノム異常の見地から理解する非常に有益なものとなった。
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