研究課題/領域番号 |
16K14610
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
柴山 弓季 香川大学, 医学部, 博士研究員 (90401190)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | (P)RR / 膵臓がん / ゲノム不安定性 / 発がん |
研究実績の概要 |
本課題は、(プロ)レニン受容体【(P)RR】が膵臓癌形成に関与するかどうかを明らかにすることである。平成28年度は、膵臓がんの起源細胞であるヒト正常膵管上皮細胞を用いて1.(P)RR過剰発現ヒト膵管上皮細胞の樹立 2. (P)RR過剰発現ヒト膵管上皮細胞を用いたヒト全ゲノム解析 3.(P)RR過剰発現ヒト膵管上皮細胞を用いたDNA損傷の有無の検討を実施した。研究実績は以下のとおりである。 1.エピソーマルベクターに(P)RRをコードする遺伝子ATP6ap2のストップコドンを除いたコーディングシーケンス領域のサブクローニングを実施した。さらに、各ドメインの機能解析を実施するため、それぞれ⊿NTF(N-terminal fragment)と⊿CTF (C-terminal fragment)の欠失突然変異体も作製した。ヒト正常膵管上皮細胞にそれぞれのコンストラクトを遺伝子導入し、安定発現細胞株を樹立した。 2.ヒト全ゲノム解析のBcftoolによる変異コール解析により、(P)RR過剰発現細胞で約2倍量の体細胞突然変異(コントロール細胞:124,579; (P)RR過剰発現細胞:239,080;但し、dbSNPに登録されている多型を除いた点突然変異・挿入・欠失。)が同定された。さらに(P)RR過剰発現細胞では膵臓がん患者で体細胞突然変異が普遍的に認められる遺伝子(Nature, 2016)の体細胞突然変異数の増大が確認され、BreakDancerによる解析から転座や逆位といった大規模な染色体再編成が(P)RR過剰発現細胞のゲノム全体で著しく生じていた。 3.(P)RR発現の亢進は、γ-H2AXとp53といったDNA損傷経路の不活性化を認めた。さらにDNA損傷応答を評価するコメットアッセイから(P)RR発現の増大は、DNA修復能力の喪失ををもたらすことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膵臓がんの起源細胞であるヒト正常膵管上皮細胞の(P)RR発現の亢進が、γ-H2AXとp53をコンポーネントに持つDNA損傷経路の不活性化および、DNA修復能力の喪失をもたらした。さらに、ヒト全ゲノムレベルの解析において(P)RRが過剰に発現した細胞では、体細胞変異数の増大や大規模な染色体再編成をもたらす事実が判明したことによって、(P)RR発現の亢進は、全染色体レベルでのゲノム不安定性をもたらすことが明らかになった。これらの成果はShibayama et al. Aberration of (pro)renin receptor induces genomic instability in human pancreatic ductal epithelial cells.AACR Annual Meeting 2017で発表する予定である。本課題の主軸となる(P)RR発現の亢進がゲノムの恒常性を破綻させる事実を見出せたことから、現在までの進捗状況を上記のように判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向性として、(P)RR過剰発現細胞集団のin vitroおよびin vivoレベルでの表現型の評価に注力する。1.(P)RR過剰発現ヒト膵管上皮細胞における足場非依存性増殖能 2.(P)RRトランスジェニックマウスを用いたがん自然発症の有無 3.(P)RR過剰発現ヒト膵管上皮細胞の免疫不全マウスの腎被膜移植下における腫瘍形成能の評価を実施する。さらに、当初の予定に加えて(P)RR発現の亢進がゲノム不安定性をもたらす分子機構を明らかにする。作製した⊿NTF(N-terminal fragment)と⊿CTF (C-terminal fragment)の欠失突然変異体を用いて,(P)RRのどのドメインがゲノム不安定性に寄与しているかどうか確かめるために、DNA修復能力を評価するコメットアッセイの実施を行うとともに、LC/MS解析のTandem Mass Tag (TMT)を用いて(P)RRと分子間相互作用を持つことが想定されるゲノムの安定性を担う分子の特定を実施する。
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