研究課題/領域番号 |
16K14611
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
小松 利広 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 助教 (90598517)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 免疫学 / T細胞 / 血管内皮細胞 / 腫瘍細胞 / 抗原提示 |
研究実績の概要 |
平成28年度には、腫瘍抗原を特異的に認識する細胞傷害性T細胞(腫瘍特異的CTL)が、腫瘍抗原を取り込んだ腫瘍内血管内皮細胞(tEC)下へ潜り込む様子を顕微鏡下で観察した。その結果、腫瘍抗原を取り込んでいないtECよりも取り込んでいるtEC下へ、腫瘍特異的CTLがより潜り込む様子を確認した。また、抗体を用いてtECによる腫瘍抗原の提示をブロックしたところ腫瘍特異的CTLの潜り込む程度が抑制された。これらのことから、tECが提示する腫瘍抗原を腫瘍特異的CTLが認識することによりtEC下への潜り込みが促進されたと考えられる。また、生体内においてtECが提示する腫瘍抗原の認識による腫瘍特異的CTLの腫瘍組織内浸潤を評価するために、腫瘍細胞自身が提示している腫瘍抗原を腫瘍特異的CTLが認識できないマウス実験系を確立した。このマウス実験系を用いて、腫瘍抗原を発現している腫瘍組織内および発現していない腫瘍組織内への腫瘍特異的CTLの浸潤を評価した。その結果、腫瘍抗原を発現している腫瘍組織内へ浸潤する腫瘍特異的CTLがより多いことが明らかとなった。このことから腫瘍細胞以外の細胞が腫瘍抗原を取り込み、提示することで腫瘍特異的CTLの腫瘍組織内浸潤が促進されたと考えられる。これらの結果は、我々が提唱している「抗原認識によるCTLの腫瘍組織内浸潤促進メカニズム」の存在を支持している。現段階では腫瘍特異的CTLに腫瘍抗原を提示している細胞の特定には至っていないが、tECによる抗原提示の関与を評価する研究を次年度に計画している。本研究でそのメカニズムが明らかとなれば、固形腫瘍組織内へCTLを積極的に浸潤させることが可能となり、抗腫瘍免疫療法の更なる改良が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要にも記述しているように、我々が提唱している「抗原認識による細胞傷害性T細胞(CTL)の腫瘍組織内浸潤促進メカニズム」の存在を支持する実験結果が出ており、研究計画の変更もなく順調に進展している。そのため、当初平成29年度に予定していたin vivoの系において抗原認識による腫瘍特異的CTLの腫瘍組織内浸潤を評価する実験を平成28年度に実施することができた。また、血管内皮細胞(EC)による抗原提示を促進する物質も新規に見出しており、本研究課題の応用に期待できる。平成29年度には、担癌マウスにこの物質を投与した際の腫瘍退縮に対する影響を評価する実験も予定しており、当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していた通り、野生型マウスとMHC class I分子ノックアウトマウス間で骨髄移植キメラマウスを作製し、今後の研究に用いる。作製した骨髄移植キメラマウスを用いて腫瘍特異的細胞傷害性T細胞(CTL)の腫瘍組織内浸潤に対する腫瘍内血管内皮細胞(tEC)による抗原提示の関与を評価する。同時に血管内皮細胞(EC)により提示される腫瘍抗原を認識した腫瘍特異的CTLの細胞傷害活性をクロムリリースアッセイにより評価する。また骨髄移植キメラマウスにおける腫瘍退縮誘導能を野生型マウスと比較し、評価する。この実験系には、腫瘍特異的CTLにより認識される腫瘍抗原を提示することができる腫瘍細胞を用いる。さらに、ECによる抗原提示を促進する物質を担癌マウスに投与した際の腫瘍退縮に対する影響も評価する。有意に効果が認められた場合には特許出願も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今後の研究の推進方策にも記述したように、本研究課題を応用した実験を次年度の計画に加えており、当初の予定よりもマウスや細胞培養関連試薬等の購入費用が必要となってしまうため。
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次年度使用額の使用計画 |
骨髄移植キメラマウス作製用のマウス購入費およびマウス飼料・維持費250,000円、well plateや遠心管などのプラスチック製品150,979円、細胞培養用ウシ血清200,000円、T細胞刺激用ペプチド作製試薬および抗体478,000円、実験補助100,000円、学会費用100,000円、論文投稿料200,000円で使用を予定している。
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