研究課題/領域番号 |
16K14614
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
谷 時雄 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (80197516)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 核分葉化 / ケミカルバイオロジー / 化合物 / リン酸化 / YB1 / チューブリン |
研究実績の概要 |
「がんの顔つき」は、乳がんなどの病理検査による悪性度評価を表す言葉として、一般に広く使用されている。「がんの顔つき」の良し悪しは、がん細胞の核異型化(核形態変化)の度合いを基に評価されるが、実は核異型化の分子機構はほとんど解明されていない。本研究では、「がんの顔つき」の指標となる核の異型化、特に分葉化の分子機構を、新規に同定した核分葉化誘導化合物2057の作用機構解析を介して解明する。 28年度では、まず、PKC-YB1-Tubulin経路を介した2057による核分葉化誘導モデル(PYTモデル)について、リン酸化特異的抗体による免疫染色やwestern blot 解析、チューブリンやYB1に対する阻害剤解析など、細胞分子生物学的手法を駆使した検証を行った。その結果、化合物2057は、はPKCの活性化を介してYB1をリン酸化し核の分葉化を引き起こしていることが実験的に証明できた。そこで、YB1のリン酸化部位をアスパラギン酸に置換したリン酸化型模倣変異体YB-S102D及びアラニンに置換した非リン酸化型の変異YB1の過剰発現による効果を解析したが、内在性YB1存在下では、顕著な核分葉化誘導などは観察されなかった。また、分葉化した核を通常の核形態に戻す抑制化合物を、化合物ライブラリーを用いてスクリーニングした。約1,000種類の化合物をスクリーニングした結果、2057による核分葉化誘導を抑制する26種類の化合物を同定することに成功した。29年度では、それら化合物の作用機構を解明する予定である。 更に、2057処理後の核の分葉化及び細胞遊走化促進に関わる遺伝子群を同定するため、経時的に、RNA-Seq解析を実施し、2057処理によって発現が上昇する遺伝子群、発現が抑制される遺伝子群を同定することに成功した。興味深いことに、発現が抑制される遺伝子群の多くがノンコーディングRNA遺伝子であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画に記載した2057による核分葉化誘導モデル(PYTモデル)について、実験的に検証することができた。また、プラスミドからリン酸化状態を模倣した変異タンパク質を発現させて効果を観察する実験も予定通り実施できた。更に、分葉化した核を通常の核形態に戻す化合物を、化合物ライブラリーのスクリーニングにより26種類同定することに成功した。また、当初予定どおり、2057処理後の遺伝子発現変動をRNA-Seqを用いた解析により解明できた。以上の成果から、おおむね順調に研究を進めることができていると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
1)研究期間終了までに、研究成果を論文としてまとめ、インパクトファクターの高い国際誌に掲載する。 2)RNA-Seq解析により同定した核分葉化と関連の深い遺伝子について、機能解析を進める。 3)28年度のスクリーニングより同定した26種類の核分葉化阻害(分葉核復帰誘導)化合物の作用機構について解析を進める。 4)分葉核復帰誘導化合物で、分葉核を持つ乳癌細胞株、好中球細胞、成人T細胞白血病(ATL)培養細胞を処理し、分葉核が通常の核形態に戻るか、戻った際の遺伝子発現変化や表現型など、核形成に対する影響を解析する。また、同定した分葉核復帰誘導化合物のATL培養細胞株や乳癌細胞株に対する抗増殖活性や抗浸潤活性について詳細に解析し、創薬シーズとしての可能性を多面的に検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度後半で実施計画していたChIP-Seq解析が、熊本地震によるDeep sequencerを含めた共通機器類の被災により、大幅に遅れたため、その試薬費等を29年度に繰り越した。28年度後半は、ChIP-Seq解析以外の解析に注力した。3月末までに被災機器類の更新がなされたため、29年度前半にChIP-Seq解析の続きを実施する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越し額759,239円のうち、ChIP-Seq解析に必要なDeep sequencer試薬として480,000円、ChIP用抗体や一般試薬などで279,239円を、29年度前半6月末までに使用する予定である。
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