研究課題/領域番号 |
16K14615
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研究機関 | 日本赤十字北海道看護大学 |
研究代表者 |
山崎 弘資 日本赤十字北海道看護大学, 看護学部, 教授 (20281884)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 血栓性微小血管障害 / 腫瘍随伴症候群 / Braf |
研究実績の概要 |
血栓性微小血管障害thrombotic microangiopathy (TMA)は前立腺癌、乳癌、肝癌、肺癌など様々な癌で腫瘍随伴症候群として報告されているが、その発症のメカニズムについてはほとんど分かっていない。癌に伴うTMAは多臓器障害を伴うため患者の負担が非常に大きく、その詳細な分子機構を明らかにして、予防法・治療法を開発することは多くの患者のquality of lifeを改善するために求められている。しかし、癌に伴うTMAについては適切な動物モデルが存在しないために詳細なメカニズムの解析はほとんど行われていない。我々は、マウス肝腫瘍で高頻度に見られるBraf変異を肝細胞特異的に発現するトランスジェニックマウス(Braf-TGマウス)を作製したところ、腎臓や肺においてTMAを引き起こして死亡する現象を見出してきた。本研究の目的はこのトランスジェニックマウスにおけるTMAの発症機序を解明することである。Braf-TGマウスの末梢血や骨髄では,血小板と巨核球が著明に増加しており、また破砕赤血球、巨大血小板が観察された。Braf-TGマウス肝ではトロンボポエチン(TPO) mRNAが高発現しており、この肝臓から分離した培養肝細胞の上清には多量のTPO蛋白質が検出された。病理組織学的解析では,肝類洞壁、腎糸球体や肺の間質の微小血管に血小板が付着していた。これらのことは、腫瘍化した肝細胞においてTPO蛋白質の分泌亢進が起こり、その結果として末梢血中の血小板数を増加させている可能性が考えられた。しかしながら、末梢血血小板の増加は必ずしも血小板の活性化と直結するとは限らないため、今後は血小板の活性化機構について解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結果1. コントロールマウスとBraf-TGマウスから末梢血を採取して全血球算定を行ったところ、コントロールマウスと比較してBraf-TGマウスでは末梢血血小板数の数が1.5倍程度増加していた。また、Braf-TGマウスの末梢血塗抹標本では破砕赤血球、巨大血小板が観察された。さらに、これらのマウスから採取した骨髄細胞や脾臓組織を顕微鏡で観察すると、Braf-TGマウスにおいては巨核球や巨核芽球の増多が認められた。 結果2. それぞれのマウスから採取した肝組織からRNAを抽出し、血小板産生を促進する蛋白質をコードするTpo遺伝子の発現量をリアルタイムRT-PCR法で評価した。その結果、コントロールマウスと比較してBraf-TGマウスではTpo mRNAの発現が6倍程度増加していた。 結果3. それぞれのマウスから採取した肝組織から蛋白質を抽出し、ウエスタンブロット法によりTPO蛋白質の発現量を評価すると、コントロールマウスと比較してBraf-TGマウスではTPO蛋白質の発現量が2倍程度増加していた。また、これらのマウス肝組織からコラゲナーゼ還流法により肝細胞を分離培養し、その培養上清中に分泌されるTPO蛋白質の量を解析するとコントロールマウス由来肝細胞と比較しBraf-TGマウス由来肝細胞では3倍程度多く分泌することが明らかになった。 これらの結果から、Braf-TGマウスの肝組織を構成する肝腫瘍細胞ではTPO蛋白質の分泌亢進が起こり、結果として末梢血血小板を増加させることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
末梢血血小板の増加は必ずしも血小板の活性化と直結するとは限らない。今後は増加した血小板が、肺や腎臓において血栓を形成する機序について解析を進める。具体的には腫瘍化した肝組織環境に存在する免疫担当細胞や血管内皮細胞等が血小板を活性化させる因子を発現しているかどうかについて免疫蛍光染色などを利用して解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が順調に進み、抗体試薬、キット、実験動物の使用量が当初予定していたものより少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度の研究経過から、本研究計画書作成当初には想定していなかった、抗体試薬・キット等の購入が必要なことが判明した。昨年度未使用分の経費は、そちらに充当したいと考えている。
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