研究課題
血栓性微小血管障害thrombotic microangiopathy (TMA)は前立腺癌、乳癌、肝癌、肺癌など様々な癌で腫瘍随伴症候群として報告されているが、その発症のメカニズムについてはほとんど分かっていない。我々は、マウス肝腫瘍で高頻度に見られるBraf変異を肝細胞特異的に発現するトランスシジェニックマウス(Braf-TGマウス)を作製したところ、腎臓や肺においてTMAを引き起こして死亡する現象を見出してきた。本研究の目的はこのBraf-TGマウスにおけるTMAの発症機序を解明することである。当初、このBraf-TGマウスでは補体成分が過剰産生されることから、このことがTMAの原因であると推測していた。しかしながら、Braf-TGマウスの末梢血や骨髄では、血小板と巨核球が著明に増加しており、また破砕赤血球、巨大血小板が観察された。このことから、TMA の発症はこのマウスの血小板産生機構に原因があると考え、このマウスの肝細胞が引き起こす血小板産生機構の異常について解析を進めた。Braf-TGマウス肝ではトロンホボポエチン(TPO) mRNAが高発現しており、この肝臓から分離した培養肝細胞の上清には多量のTPO蛋白質が検出された。病理組織学的解析では,肝類洞壁、腎糸球体や肺の間質の微小血管に血小板が付着していた。これらのことは、腫瘍化した肝細胞においてTPO蛋白質の分泌亢進が起こり、その結果として末梢血中の血小板数を増加させている可能性が考えられた。さらに、末梢血血小板の増加は必ずしも血小板の活性化と直結するとは限らないため、今後は血小板の活性化機構について解析を進めたところ、このBraf-TGマウスの類洞内に存在するクッパー細胞の膜には血小板接着に関連するポドプラニンが高発現しており、このことが全身の血小板の活性化に関与し、TMAを引き起こしていると考えられた。
すべて 2018 2017
すべて 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)