研究課題/領域番号 |
16K14616
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
堺 隆一 北里大学, 医学部, 教授 (40215603)
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研究分担者 |
山口 英樹 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (10345035)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | スキルス胃がん / がん間質相互作用 / CAF / Dasatinib / 微小環境 |
研究実績の概要 |
スキルス胃がん細胞と間質線維芽細胞を3次元マトリゲル上で共培養することで特徴的な浸潤性の細胞凝集塊を形成することを見出した。この浸潤性凝集塊は腫瘍細胞や線維芽細胞のみでは形成されず、また高分化型胃がん細胞でもほぼ形成が見られないことから、癌-間質の相互作用による浸潤能獲得のモデルになると考えた。蛍光イメージングにより定量解析できることから、この相互作用を抑制する薬剤のスクリーニングを、文科省がん支援班から供給された約3000種の阻害薬ライブラリーを用いて進め、実際、幾つかの薬剤が強い細胞毒性の見られない濃度で、浸潤性凝集塊の形成を優位に阻害することを見出した。これらの薬剤のうちDasatinibについては腹膜播種モデルマウスの腹腔内への投与で、線維芽細胞の腫瘍内への侵入が減少し、播種結節の形成を抑える効果が確認された。スキルス胃がん細胞と間質線維芽細胞との相互作用でみられる変化は、一方の培養上清の添加では起こらないためがん細胞と線維芽細胞の直接接触によっておこると考え、直接接触に影響を与える化合物・モノクローナル抗体の探索の系の確立を行った。線維芽細胞を単層培養したディシュ上にGFPでラベルしたスキルス胃がん細胞を重層し、15分後に2回洗うことで残存したスキルス胃がん細胞の数を蛍光によって定量化すると、線維芽細胞をあらかじめ蒔いておかない場合に比べ著しく残存細胞が増えることがわかった。高分化型胃がん細胞を用いた場合にはこのような接着能の差がみられないことから、スキルス胃がん特有の線維芽細胞との直接相互作用を反映している可能性が高いと考え、この系での化合物・モノクローナル抗体の検索に進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、スキルス胃がん細胞と間質線維芽細胞との相互作用でみられる浸潤性凝集塊形成のような変化が、がん細胞と線維芽細胞の直接接触によっておこることを確認することができた。またそのような直接接触による相互作用に影響を与える化合物・モノクローナル抗体のハイスループットな探索の系の確立を行うことができた。このアッセイ系では、高分化型胃がん細胞を用いた場合には相互作用がほとんど認められず、スキルス胃がん特有の線維芽細胞との直接相互作用を反映している可能性が高いと考えている。この系での化合物・モノクローナル抗体の検索に進めている。また藤田保健衛生大学の黒澤仁先生に、スキルス胃がん細胞の細胞表面を抗原としたヒト型ファージディスプレイ抗体ライブラリーを作成していただいき、次の段階のスクリーニングの準備を整えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
創薬の共同研究を行っている藤田保健衛生大学の黒澤仁先生に、スキルス胃がん細胞の細胞表面を抗原としたヒト型ファージディスプレイ抗体ライブラリーを作成していただいた。この抗体ライブラリーは1000億レベルのライブラリーサイズを持ち、すでに腫瘍細胞表面の特異抗原を数多く同定することに成功している(Kurosawa G et al, 2011)。このライブラリーを、今年度確立したスクリーニングの系を用いて選別し、相互作用に影響を与える治療抗体の創出や、相互作用に関わる分子メカニズムを解明することが大きなチャレンジである。一本鎖抗体ながらin vitroでは膜蛋白質の機能阻害も確認でき、腫瘍細胞側、線維芽細胞側それぞれの表面で相互作用に関連する蛋白質を同定する目的で利用可能であると考えている。必要であればFc部分を持つ完全抗体への変換もおこなう。これらの抗体の腹腔内投与によりスキルス胃がんの腹膜播種がどの程度抑えられるのか、マウスモデルを用いた実験も進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年3月末で分担研究者山口が、国立がん研究センターから佐々木研究所へ異動となったため、その準備のため情報交換や研究に若干の滞りが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費(消耗品)として使用する。
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