アポトーシス促進性タンパク質であるBIMは、オートファジーを抑制するはたらきがあることが最近明らかとなった。また、BIMをコードする遺伝子に欠失多型を有すると、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)に抵抗性を示すことが、慢性骨髄性白血病(CML)や肺がんにおいて報告されている。CMLでは、酸素分圧の低い骨内膜周辺のニッチに存在する白血病幹細胞の存在が再発の要因とされ、低酸素応答を行うことで幹細胞形質を維持し、治療抵抗性を獲得していると考えられている。BIMは低酸素応答因子(HIF)により発現が負に制御されることが報告されている遺伝子である。本研究では、アポトーシスとオートファジー両方の調節に関わるBIMに注目し、BIMが関与するTKI抵抗性の分子機序を明らかにすることを目的として研究を行い、以下の成果を上げた。 1) BIMの発現量は、正常細胞よりもCML細胞において、さらにCML細胞の中では幹細胞分画において、有意に低下していることを確認した。2) 白血病細胞株において、CRISPR/Cas9法によりBIM欠損株を作製したところ、強いTKI抵抗性とオートファジー活性の亢進を示した。3) オートファジー阻害剤の併用およびオートファジー関連遺伝子Atg7とBIMの二重欠損株の作製により、オートファジー亢進のTKI抵抗性への寄与は限定的であることを明らかにした。4) BH3模倣薬(ABT-737)の併用により、BIM欠損株でTKI抵抗性が克服されることを確認し、BIM欠損によるBAXの不活化がTKI抵抗性の要因であることを明らかにした。 以上の結果から、がん幹細胞において、BIMの発現量の低下がTKI抵抗性に寄与していると考えられる。また、BIMの低下によるTKI抵抗性は、BAXを活性化するBH3模倣薬を併用することで克服できる可能性を明らかにした。
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