研究課題
アルクチゲニンによるがん組織微小環境低酸素の改善を、ヒト大腸がんLS174T, ヒト膵がんSuit2, Miapaca2細胞ゼノグラフトで、5xHRE-Luc遺伝子を用いた低酸素イメージング、ピモニダゾール染色による低酸素検出、Gd-DTPAを用いたMIR-Perfusionなどで確認した。血管網正常化のメカニズム解析のためのRNA発現解析や免疫組織学的解析も行った。低酸素改善による治療効果の増強(synthetic lethality)を、X線治療モデル、化学療法モデルで行った。その結果、アルクチゲニンによるゼノグラフトの低酸素領域の減少はどのゼノグラフトでも明確であった。アルクチゲニン投与で腫瘍体積は減少するが、体積あたりに換算しても有意に低酸素領域が減少した。アルクチゲニンの腫瘍細胞、血管内皮細胞での遺伝子発現への影響を血管新生、血管新生抑制因子に関し解析した結果、Tie2, Angiopoietin,ANGPTL4など複数の遺伝子発現が大きく変化することが明らかになった。低酸素改善による治療効果の増強はX線、抗がん剤ともに顕著であった。X線治療では、Miapaca2細胞を用い、治療前の低酸素イメージングによる低酸素の程度と12-20Gy一回照射による腫瘍縮小効果は高い逆相関を示し、低酸素改善により治療効果が増強されていると考えられた。抗がん剤であるCPT-11との併用療法では、顕著な腫瘍縮小効果があったが腫瘍組織へのCPT-11の送達が増加していることがわかった。血流の改善、組織感圧の低下などの微小環境改善に加え、CPT-11の抗腫瘍効果も低酸素により十分の一程度に低下するが、この低酸素効果の低下両方の効果が重なり併用効果が顕著となっていると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
アルクチゲニンによる腫瘍微小環境の低酸素の改善(減少)、微小環境の改善効果を3種のゼノグラフトを用いて再確認できた。Gd-DTPAを造影剤として用いたMRI-Perfusionでは腫瘍により程度の差はあるが、アルクチゲニンによるPerfusionの増加、血流の改善を確認できた。Power Dopplerを用いた血流の増加は、少なくともMiapaca2を用いた腫瘍で確認できた。光音響による酸素飽和度の測定と5xHRE-lucによる低酸素イメージングの結果は必ずしも一致はしなかった。その原因として、二つの解析でどこをROIとしているのかが方法により異なるためかもしれないとも考えられた。この点に関してはイメージングの方法論の比較としてとても興味深いために詳細に検討をする予定である。腫瘍血管網の正常化・成熟度の解析には各種の免疫染色を施行しているが血管走行の定量的解析を行うために理化学研究所の研究者と共同研究を始めた。アルクチゲニンの腫瘍細胞や血管内皮細胞での血管新生関連遺伝子発現への影響が明らかとなったが全体的にはanti-angiogenicな因子、血管成熟因子の増加が見られることがわかったが、どの因子が主なる役割を果たすのかをゼノグラフトを用いた解析で明らかにする予定である。X線治療、化学療法ともに組織レベルでは顕著な増強効果が得られた。一方、培養細胞レベルでは双方ともに増強効果はなく組織レベルの相乗効果synthetic lethalityと呼べるものであることがわかった。薬剤との相乗効果はCPT-11で観察されたごとくPerfusionの増加によるdrug deliveryの改善効果も含んでいる可能性がある。いずれにしろ組織レベルのsynthetic lethalityとの呼び名にふさわしい現象である。
すでに述べたごとく、今回の研究で低酸素のイメージングや血液灌流の測定方法間の齟齬なども明らかになった。これらはとても重要な問題を含んでいる可能性があり、より詳細に組織との対合をしながら検討していく予定である。Vascular normalizationのメカニズムに関しては、当初想定していたantiausterityの活性、つまり血液灌流の少ない組織領域への選択的毒性によりこれらが脱落するために、相対的に血液灌流の良い部分が残るというメカニズムに加えて、アルクチゲニンが遺伝子発現変化を通じてantiangiogenesisの活性を持っている可能性が明らかになった。現在臨床で用いられているantiangiogenesis agentsは副作用という意味では多くの問題を抱えている。アルクチゲニンのメカニズムを詳細に明らかにすることで新たな治療標的が見いだされる可能性が高い。おのおのの遺伝子のノックダウンやノックアウトマウスを含めて解析しメカニズムを明らかにする。X線治療での増強効果は、組織レベルでの札細胞効果の増強がどの程度昂進しているのかを、組織レベルでのアポトーシスの増強という観点で詳細に検討しこれとピモニダゾール染色、ルシフェラーゼの抗体による染色とをつきあわせることで組織レベルでの酸素効果の減少が起こっているのか否かを検討する予定である。一方この治療法はすぐにでも臨床導入できるものであり、臨床プロトコールにつながる検討を行う予定である。今がん治療での免疫療法の役割は増加している。免疫療法への低酸素領域現象の効果を観察するための準備を進めているが本年度中に実施予定である。
消耗品購入による、端数が生じた為。
平成29年度の物品費と合算使用予定。
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