研究課題/領域番号 |
16K14622
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
山口 英樹 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (10345035)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | スキルス胃癌 / 腹膜播種 / 蛍光イメージング / 腫瘍不均一性 |
研究実績の概要 |
スキルス胃癌は間質増生、びまん性浸潤、腹膜播種性転移を特徴とする予後不良の難治癌である。特に腹腔内に種を播く様に転移する腹膜播種は患者の予後とQOLを悪化させる最も大きな要因である。しかし有効な治療法は無く、その形成過程や分子機構はほとんど明らかになっていない。本研究では、個々のスキルス胃癌細胞を異なる色で蛍光ラベルしてマウスに移植し、多色蛍光イメージングにより腹膜播種巣を解析することで腫瘍不均一性を明らかにすること、さらに腫瘍不均一性や治療抵抗性を生ずる分子機構を明らかにすることを目的とした。今年度は先ず、スキルス胃癌細胞の多重蛍光ラベルに着手した。当初はBrainbowと呼ばれるランダムに蛍光タンパク質が発現するシステムを用いる予定であった。しかし実験を行った結果、遺伝子導入効率などの問題によりラベルが困難であることが分かった。そこで次に、RGBマーキングという手法を試みた。スキルス胃癌細胞に、赤、緑、青の蛍光タンパク質を発現するレンチウィルスを同時に感染させた。その結果、各遺伝子の導入効率や発現効率の違いによりランダムに各蛍光タンパク質が発現するため、個々の細胞を異なる蛍光色でラベルすることに成功した。これらの細胞をヌードマウスの腹腔内へ移植し、腸間膜、大網など形成された腹膜播種巣の凍結切片を作製して蛍光顕微鏡観察を行った。その結果、調べた全ての腫瘍は単一の蛍光色ではなく、複数の蛍光色を示していた。従って、スキルス胃癌の腹膜播種巣はクローンではなく、複数の細胞集団からなる腫瘍不均一性を持つことが示された。この研究により得られた成果は、スキルス胃癌の腹膜播種巣の不均一性を明らかにした点で意義が深く、今後の治療法の開発に大きく貢献すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、スキルス胃癌細胞の多重蛍光ラベルに成功し、マウスを用いた動物実験による腹膜播種腫瘍の解析に着手することが出来たため。
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今後の研究の推進方策 |
マウス腹膜播種モデルを用いて、さらに腫瘍不均一性の解析を進める。腹膜播種巣の転移部位により腫瘍不均一性に違いがあるか、腹膜播種の進行に伴いどのように変化するか検討を行う。また分子標的薬剤を投与して、腫瘍の縮小や再発に伴う細胞集団の均一性の変化を解析する。一方、特徴的な細胞集団が認められた場合には、ラベルした蛍光色によりFACSでその細胞集団を分離し、遺伝子発現解析などから不均一性を生じる分子機構を明らかにする。さらに人為的に遺伝子改変をしたクローンをそれぞれ異なる蛍光色でラベルし、混合してマウスに移植することで腫瘍不均一性の評価モデルを作成すること目指す。本研究が目指す腹膜播種巣の不均一性の解明は、スキルス胃癌の腹膜播種機構の理解と分子標的薬の臨床応用において極めて重要であると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、消耗品についてより安価なものを購入したり、研究室に既に設置されていた機器を利用するなどして備品の購入を見合わせることにより、当初の計画よりも物品の購入費が低く抑えられた。また予定していた学会発表を次年度に行うこととしたために、旅費の支出が無かった。以上の理由により次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度はより多くの細胞培養や動物実験を行うため、今年度より物品費が増える見込みである。また学会発表、論文発表を行う予定であり、旅費、英文校正費、論文投稿出版料などに多くの予算を使用する。
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