研究実績の概要 |
HTLV-1はT細胞系腫瘍の一つである成人T細胞白血病(Adult T-cell Leukemia, ATL)の原因である。方法論の欠如によって、これまで感染細胞からHTLV-1プロウイルスゲノムを取り除く事はできなかった。従って、発症後のATL病態形成にHTLV-1がどのような関与を示しているかは解明できなかった。つまり、HTLV-1において腫瘍学の古典的仮説「発がん過程におけるパッセンジャー説」は未だ結論されていない。これを解決するため、申請者らはHTLV-1のプロウイルスゲノムを特異的に認識するZinc Finger Nuclease(ZFN)の応用を試みた(Tanaka et al. Leukemia 2013)。 プロウイルス除去のため、ZFNをレトロウイルスベクターでATL由来細胞株に導入し、HTLV-1プロウイルスが除去された細胞クローンの樹立を試みた。ZFNのもつゲノム毒性に対応する為にテトラサイクリンを利用した発現制御系を応用したが、低い発現量でもゲノム毒性と思われる非特異的な細胞傷害が検出された。そこで、CRISPR/Cas9系を採用すると同時に、オフターゲット効果を最小限にするために我々が独自に開発したタンパク質導入系のLENAを応用した。HTLV-1陽性と陰性のT細胞株にタンパク質導入系を試験したところ、HTLV-1陽性細胞に対してより高い細胞傷害性が観察された。これはプロウイルスへの特異的なゲノム編集の効果を反映するものと思われる。一部の細胞プールから得られたゲノムDNAを鋳型にプロウイルスが除去されたゲノムを特異的に検出するPCRによって陽性反応が得られ、技術的にプロウイルスが除去された初めてのシグナルを得る事に成功した。この知見はプロウイルスの存在は細胞の生存に必須ではない事が示唆される。現在、この知見の定量的な解析、細胞クローンが持つ基本的な性質のcharacterizationを進めている。
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