平成29年度では、平成28年度中で明らかにした悪性中皮腫における新規血管新生因子であるprogranulinとgranulin様タンパク質の受容体の探索およびgranulin様タンパク質の起源について解析を行った。progranulinの受容体に関しては最近、エフィリン受容体ファミリーの1つであるEphA2がprogranulinの新規受容体として報告された。我々もEphA2がprogranulin及びgranulin様タンパク質の受容体として働いているかをEphA2のリン酸化を認識する抗体で解析するために、血管内皮細胞を中皮腫細胞株の無血清培養上清で刺激したところ、どの時間帯においても血管内皮細胞のEphA2のリン酸化は誘導されなかった。この結果から中皮腫細胞株の無血清培養上清中に存在するprogranulinとgranulin様タンパク質はEphA2とは異なる受容体に結合する可能性が示唆された。また、granulin様タンパク質の起源を調べるため、中皮腫細胞株のゲノムDNAを用いて全エクソーム解析を行ったが、granulin遺伝子の全エキソンには欠失,転座などの欠損変異は見られなかった。中皮腫細胞株の無血清培養上清中にはprogranulinとgranulin様タンパク質が存在することから、この中皮腫細胞株のgranulin遺伝子が存在する染色体はアレル染色体であることが考えられた。このアレル染色体が原因でゲノムDNA中には全長のgranulin遺伝子と、イントロンもしくは非翻訳領域に何らかの変異が入ったために転写時のメッセンジャーRNAのエキソンが短い形で発現するgranulin遺伝子が混同する形で存在するため全エクソーム解析では全長のgranulin遺伝子しか検出されなかったことが考えられる。
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