研究課題
平成28年度の研究計画では、組織検体を用いたRPPA法の最適化と、培養細胞を用いたRPPA法によるTNIK阻害剤バイオマーカーの探索を達成目標としていた。組織検体を用いたRPPA法の最適化については、培養細胞からタンパクを抽出する際用いたRIPAバッファーが凍結組織検体からのタンパクの抽出にも適応可能であることを確認した。更に、作製したRPPAを用いてtotal 抗体とリン酸化抗体によるシグナル検出を行い、得られた結果をウエスタン法により検証した。その結果、両結果には高い相関が得られた。一方、RPPAを用いたTNIK阻害剤バイオマーカーの探索については、大腸がん細胞HCT-116及びDLD-1細胞株を我々が開発した新規TNIK阻害剤NCB-0846、及びTNIK阻害活性を持たないNCB-0846の構造異性体であるNCB-0970で処理し、様々なシグナル伝達経路のキーとなる伝達分子のリン化プロファイリングをRPPAにより行った。NCB-0846は、TNIKキナーゼ活性を阻害することによりWntシグナル経路を遮断する薬剤であるが、NCB-0846処理細胞とNCB-0970処理細胞より得られたリン酸化プロファイルの比較解析により、NCB-0846のみで、特徴的にリン酸化が増加あるいは減少するたんぱく質を見出し、現在これらのたんぱく質について、ウエスタン法による確認を進めている。これらのタンパク質の中にはWntシグナルへの関与がこれまで報告のないタンパクも見つかっている。TNIKは多機能なタンパク質であることがこれまで報告されており、本解析で検出されたWntシグナル以外のシグナル経路がNCB-0846により作用を受けていることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
組織検体を用いたRPPAの最適化を行うため、当初はマウス組織を用いて行う予定であったが、組織検体でRPPAの作製を行うことがきた。本研究では凍結臨床検体のRPPA法の確立を目的としていたため、マウスを用いたステップを省略することができた。結果として、細胞を用いたRPPAとほぼ同じ条件でシグナル検出が可能であることが明らかになった。一方、TNIK阻害剤の治療効果モニタリングマーカーの探索については、Wntシグナルの活性化が認められる大腸がん細胞株を用いて培養細胞RPPA法を行うことを本年度の目標としていた。我々が見出したTNIK阻害剤NCB-0846には構造異性体のNCB-0970が存在し、その構造異性体にはTNIK阻害効果が無いことを確認している。よって、NCB-0846 (3uM)、NCB-0970(3uM)、及びDMSOで大腸がん細胞株HCT-116及びDLD-1細胞株を処理後4時間、24時間に細胞抽出液を調整し、RPPAを作製した。これらのタンパクアレイに183種類のリン酸化部位特異抗体を反応させて解析を行い、NCB-0846によって有意にリン酸化が増加或は減少するタンパク質を見出した。RPPA法によって見出されたこれらのリン酸化たんぱく質について、現在ウエスタン法により、リン酸化の増加或は減少について検証を行っている。なかでも、Histone H2A の139番目のセリン残基のリン酸化はNCB-0846処理により強く誘導されることが、ウエスタン法でも確認されたため、本薬剤によりDNA損傷シグナルの活性化が誘導されていることが示唆された。以上の結果より、当初の研究計画をほぼ達成している。とりわけ、組織RPPA基盤の確立については、当初、マウスのxenograftの腫瘍組織を用いて行う予定であったが、臨床検体の使用が可能となり、最適化に要する時間が大きく短縮された。
平成29年度以降の計画としては、(1)NCB-0846治療効果モニタリングマーカー候補分子の探索と検証RPPA解析によりNCB-0846によって活性化或は抑制されるシグナル経路の全貌が明らかになりつつある。今後はRPPA解析によってNCB-0846が作用する可能性の高いシグナル経路について生物学的作用の詳細を検討し、治療効果モリタリングマーカーとなりうる候補分子を選出する。NCB-0846の作用する分子ネットワークの詳細が明らかになれば、本薬剤のoff-target効果や、多機能タンパクであるTNIKのon-target効果(Wnt抑制効果のみではない可能性もある)が明らかになり、本薬剤の有害事象の予測及び作用機序の詳細が明らかになる可能性が高い。よって、NCB-0846の臨床開発を促進する結果が得られることが期待される。(2)組織検体RPPA法を個別医療に応用しうる基盤確立へ初年度の結果より、凍結組織RPPAが細胞RPPAと同様に技術的には可能であることが明らかになった。一方、実験条件を均一にすることが比較的容易である培養細胞実験とは異なり、臨床検体のRPPA法の結果を左右するのは、臨床検体の取り扱いであることが明らかになった。ゲノム・トランスクリプトーム解析より得られるデータと統合・補完のできるレベルの情報を取得し、個別医療を支える新たな診断技術の基礎を構築するためには、臨床検体の取り扱い法、保存法の確立がキーとなる(Standard Operating Procedureの作成)。すでに臨床試験にRPPA法を取り入れている米MD Anderson Cancer Center或は、George Mason 大学に臨床検体取り扱い法の研修を現在計画している。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 備考 (5件)
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