必要なタンパク質を正常に作れないために病気を発症する多くの患者を、遺伝子治療により救済することができる。その際、治療遺伝子をゲノム中に挿入できれば、一度導入するだけで細胞分裂してもその後ずっと細胞内に維持されるので最も都合がよく、遺伝子治療用ベクターとして(逆転写により遺伝子DNAをヒトゲノムに挿入できる)レトロウイルスベクターが最も有望視された。しかしながら、このベクターを用いて1999年にフランスで行われた臨床試験において、標的の遺伝病は治療できたが、その後数名の患者で新たに白血病が発病したため、遺伝子治療はストップした。その原因は、ランダムと考えられていたレトロウイルスベクターによる遺伝子導入が、実際はヒトゲノム上の特定の場所に挿入されることにより、健常者では低く抑えられていた内在性の遺伝子が強発現されるように変化しために白血病が発症されることが分かった。そこで本研究では、レトロウイルスベクターの欠点を克服するために、内在性遺伝子発現レベルに影響を与えないようなゲノム上の安全な場所に特異的に治療遺伝子を導入することを可能にする新たな技術の開発を目指している。そのため、本年度では、昨年度デザイン・作製した人工タンパク質の性能の再現性の確認を、試験管内でのアッセイ系を用いて継続して行った。それと並行して、ヒト培養細胞での位置特異的に遺伝子を導入するシステムの構築を開始した。まず、必要な2種類のタンパク質の発現ベクターをクローニングし、塩基配列を確認した。それぞれのベクターをヒト培養細胞に導入し、各目的タンパク質の発現をウェスタンブロットで評価した。その結果、一つのタンパク質の発現は見られたが、もう一つのタンパク質の発現は確認できなかった。そのため、その発現ベクターを改良したところ、最終的に目的タンパク質の発現を確認することができた。
|