Notch1遺伝子変異によるNotchシグナルの過剰発生は、ヒトT細胞急性リンパ性白血病(T-ALL)の50%に認められる等、ヒト腫瘍発生との関連が指摘されている。しかし、Notchシグナル阻害剤は腸管上皮細胞の分化異常を誘導する等、重篤な副作用を有し、抗腫瘍薬としての効果は限定的である。我々は、NotchシグナルによるT細胞分化誘導の詳細を調べる過程で、造血未分化細胞に発現するLmo2がNotchシグナル応答性に重要であり、その発現低下は、Notchシグナルによって速やかに細胞死が誘導されることを見出した。そこで、Lmo2を標的として新たな抗腫瘍薬の開発につながる基礎的知見の集積を試みた。 本年度も、本研究課題の主たる標的分子であるLmo2の機能発現機構について追求した。Lmo2発現低下に伴い、Notchシグナルによりpro-B細胞株に認められる細胞死は、Bcl11aの発現低下によるもので、Bcl11a KOm由来pro-B細胞の細胞死と同様に、Bcl2の過剰発現により抑制された。一方、Lmo2の標的分子と考えられるBcl2a1にも同様の機能が期待されたが、Bcl2a1によってはNotchシグナル誘導性の細胞死は抑制されなかった。現在、両分子間の相違について、両分子のキメラを作製し調べており、Notchシグナルによる細胞死誘導機構の解明が期待される。また、Bcl2発現によって、Lmo2低発現pro-B細胞株の細胞死は抑制されたが、Notchシグナルによって誘導されるT細胞分化は認められなかった。これはTcf7遺伝子座の脱DNAメチル化状態が維持できず、Tcf7遺伝子発現が開始されないことに起因することが判明した。以上の知見から、Lmo2は、細胞生存を維持し、細胞系列決定遺伝子座のエピジェネティックな制御機構に寄与することが明らかとなった。
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