本研究ではRNAサイレンシングによる遺伝子抑制効果が生物の体温や個々の細胞内温度、あるいは細胞内の温度分布によって制御されることを明確にすることを目指す。温度はさまざまな形で生体に影響を与えている。われわれはRNAサイレンシングの強さが塩基対合の強さに依存していることを明らかにしている。塩基対合の強さは、温度に依存して変動する性質をもっている。そこで、本研究ではRNAサイレンシングによる遺伝子発現制御という極めて重要な生命機能が、細胞内温度に依存するという目から鱗の性質を示すために、生育温度が異なる生物種として、ショウジョウバエ、ヒト、ニワトリの3種の培養細胞を用いた実験を行った。ショウジョウバエは変温動物であるが、通常25℃で飼育される。高温動物であるヒトの体温は37℃付近であり、ニワトリは42℃付近である。ショウジョウバエ細胞としてはS2細胞、ヒトはHeLa細胞、ニワトリでは我々が独自に樹立した繊維芽細胞由来細胞を用いて、RNAサイレンシング活性を測定するためのレポーターアッセイを行った。レポーター遺伝子としてはホタルルシフェラーゼ遺伝子を用い、すでに設計済みのシード領域の塩基対合力が異なるシフェラーゼ遺伝子に対する20種類のsiRNAを用いて、RNAサイレンシング活性を測定した。RNAサイレンシングの強さは、同一のsiRNAを用いた場合には、ショウジョウバエ細胞で最も強い抑制作用を示す傾向が認められた。そこで、同一生物種でも温度が異なるとRNAサイレンシング活性が異なることを示すために、ヒトのがん化細胞を用いた解析を実施している。がん細胞は正常細胞に比べて、低温を好み、低温で増殖する。そこで、低温条件下における遺伝子発現調節機構の変化を解析する。
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