研究課題
ファイトプラズマ(Candidatus Phytoplasma属細菌)は昆虫媒介性の植物病原細菌であり、宿主と媒介昆虫との2つの生物に細胞内寄生する。ファイトプラズマが感染した植物は花が葉に変化する葉化や、種子形成が異常になる不稔症状などの特徴的な病徴を呈する。これは宿主植物が生殖ステージに移行するのを抑制し、宿主を延命させるためのファイトプラズマによる宿主操作ではないかと考えられている。また、ファイトプラズマが感染した媒介昆虫は寿命が伸びたり、高齢になっても産卵数が維持される。本研究は、こうしたファイトプラズマのアンチエイジング効果に関わるメカニズムを解明することを目的とする。平成28年度は、次世代シーケンサーや保存領域を増幅するPCR解析により、宿主操作に関わる分泌タンパク質(エフェクター)をコードする遺伝子を探索した。その結果、葉化に関わるエフェクターであるPHYL1ホモログを4種16系統のファイトプラズマから単離した。Phytoplasma asteris PYR系統のホモログのみC末端側30アミノ酸を欠失しており,宿主因子であるSEP3への結合能・分解能を失っていたが、他のホモログは全長にわたって保存性が極めて高く、SEP3への結合能・分解能を示した。また、叢生症状に関わるエフェクターであるTENGUの形質転換植物の花器官を詳細に解析したところ、莢の発達が妨げられる軽度の不稔症状に加え、蕾が開花せずに莢の形成まで至らない重度の不稔症状が認められ、TENGUと不稔症状との関連性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は、分泌タンパク質(エフェクター)や膜タンパク質がコードされるゲノム領域に着目し、宿主に影響を与える遺伝子の探索と機能解析を行うことを計画していた。葉化に関わるPHYL1のホモログを4種16系統のファイトプラズマから単離することができたとともに、TENGUと不稔症状との関連性を示唆することができ、当初の計画を達成できたことから、おおむね順調に進展しているとの評価とした。
研究代表者らの研究により、葉化に関わるエフェクターPHYL1をアブラナ科のシロイヌナズナで発現させることにより花器官の葉化が誘導されることが明らかとなっている。一方、PHYL1がアブラナ科以外の植物に対して広く花器官の葉化を誘導するか否かについては不明なため、この点を検証することを計画している。また、TENGUが不稔症状を誘導するメカニズムを解析するとともに、媒介昆虫との相互作用に関わる膜タンパク質について解析する予定である。
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Journal of Experimental Botany
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