研究実績の概要 |
蛇紋岩水系地下圏は、超アルカリ超還元的な環境である。研究代表者は、初期生命との関連性も指摘されているこの環境において、ゲノムにコードされる遺伝子セットだけでは、どのようにその生命が営まれているのかの仮説を立てることすら困難な、異質な構造をもつ生命体が多く存在することを突き止めた。よって、本研究ではこの水系に優占的に存在する微生物群を対象とし、メタトランスクリプトミクスの手法を用い、それらの微生物の利用し得る基質と微生物の関連性を明らかにすることを目指した。
本研究では、蛇紋岩水系に存在する微生物群集のメタトランスクリプトミクスを行い、さらに、ゲノムビニング法により再構築された個々の微生物のゲノム情報に当てはめた。そして、この環境中のどの微生物が、どのような遺伝子発現挙動を行っているのかを明らかとなった。その結果、OD1門(Parcubacteria門)やNPL-UPA2(Ca. Horikoshibacteria門)など、培養株がないがゆえに、その性質がほとんど明らかとされていないグループの微生物について新たな知見が得られるに至った。たとえば、本研究の成果をもとに、新規門として、Ca. Horikoshibacteria門を提唱した。(Suzuki et al., 2018)蛇紋岩水系で見られるこの門の微生物は、酢酸生成菌(一般に、水素と二酸化炭素から酢酸を生成することでエネルギーを得る微生物群の総称)の持つ還元的アセチルCoA経路を有するにも関らず、水素が利用できないことが明らかとなった。そして、ゲノムデータ、トランスクリプトミクスデータから、一酸化炭素を利用する菌である可能性が示唆された。
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