研究実績の概要 |
本研究では、プロテアソーム遺伝子の多様性がCD8 T細胞の抗原認識レパトアや免疫応答、および免疫関連疾患の感受性に影響を及ぼす可能性を検証する。 PSMB11遺伝子のdamaging variationのうち、構造予測アルゴリズムおよび培養細胞を用いた生化学実験によって機能に影響を与えることが示された3種類(G49S, S80fs, A208T)を対象として、ノックインマウスを作製し、表現型を解析した。いずれのvariationも、胸腺でのCD8 T細胞の分化が阻害されていた。MHCクラスI/ペプチド複合体に対するモノクローナル抗体を用いた解析により、これらのマウスでは胸腺上皮細胞におけるMHCクラスI結合ペプチドの変化していることが示された。これらの結果から、G49S, S80fs, A208Tはいずれも機能欠損型であることが示唆された。 日本人に多くみられるG49S variation(アレル頻度3%)に注目し、次世代シークエンシングによるTCRレパトア解析を行った。その結果、G49Sマウスでは、TCRレパトアの一部が失われ、個体間のTCRの差異が増加していることがわかった。さらに、代表的なTCRをクローニングしてレトロジェニックマウスを作製し、G49S variationによる影響が再現されることを確認した。 また、G49S variationと疾患との関連を調べるため、高地雄太博士(理化学研究所)、住田孝之博士(筑波大学)、山本一彦博士(東京大学)との共同研究により、自己免疫疾患および腫瘍との関連解析を行った。その結果、G49S variationのホモ接合とシェーグレン症候群の発症との間に有意な関連が認められた(Odds ratio 7.15, P=0.00089)。その他の疾患(関節リウマチ、自己免疫性筋炎、腫瘍)に対しては有意な関連はみられなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PSMB11遺伝子のdamaging variationを導入した3種類のノックインマウス(G49S, S80fs, A208T)の表現型解析を、当初の予定通りに完了した。これらのvariationは、胸腺上皮細胞におけるMHCクラスI結合ペプチドの変化と、CD8 T細胞の分化低下を示し、機能欠損型であることが明らかになった。 また、モデルマウスを用いたTCRレパトア解析法を確立し、これを用いてG49SマウスにおけるTCRレパトア変容を定量的に解析した。G49SマウスではTCRレパトアの一部が失われ、個体間のTCRの差異が増加していることがわかった。さらに、代表的なTCRをクローニングしてレトロジェニックマウスを作製し、G49S variationによる影響が再現されることを確認した。これらはPsmb11の作用機序および正の選択の動作原理の解明につながる成果であるとともに、他のプロテアソーム遺伝子variationの生理的意義を調べるための基盤技術として重要である。 ヒト疾患との関連解析においては、G49S variationのホモ接合とシェーグレン症候群の発症との間に有意な関連が認められた。G49S variationがシェーグレン症候群を引き起こすメカニズムは未だ不明である。シェーグレン症候群のマウスモデルを用いたG49S variationによる発症促進メカニズムの解明、およびヒトでのHLAハプロタイプとの相関などが今後の課題である。 以上の成果により、プロテアソーム遺伝子の多様性がCD8 T細胞のレパトア選択と自己免疫疾患の感受性を変化させることを明らかにし、研究目的の大部分を達成することができた。CD8 T細胞レパトアと自己免疫疾患の因果関係や、プロテアソーム分子構造への影響の解明、PSMB11以外のプロテアソーム遺伝子についての検証などが今後の課題である。
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