研究課題/領域番号 |
16K14649
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
桑野 良三 新潟大学, 脳研究所, フェロー (20111734)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / マイクロRNA / 脳組織 / 遺伝子発現 / 血液バイオマーカー |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病の本質的な病理は、脳組織の不可逆的変性である。これまでに獲得した脳機能が20数年以上の歳月をかけて次第に失われ、本人や周囲が気づいた時または軽度認知障害と診断される段階になると、脳組織は元に戻れない状態にある。したがって、無症候期に診断して治療的介入することが今日の治療戦略となっている。MRIやアミロイドPET等の脳画像診断技術の急速な技術開発や脳脊髄液を使った診断マーカー測定の進歩によって、発症前から認知症診断の精度が向上した。しかし、高額な機器、アイソトープの半減期による輸送時間の制限、専用施設が必須であるため、どこでも脳画像の撮像はできない。特別な装置を必要としない脳脊髄液バイオマーカーの生化学的測定による診断も急速に充実してきた。しかし、腰椎穿刺の被験者に与える侵襲および術者の熟練した手技を考えると、どこでも簡単にはできない。したがって、日常の血液検査で発症や進行度を判断できる血液バイオマーカーの開発は重要である。 アルツハイマー病も個人ゲノム情報に環境要因が加わって発症すると考えられる。ゲノム情報は基本的には不変であるので、遺伝子発現産物に注目してアルツハイマー病に関連する流血中のマイクロRNAの同定を試みた。次世代シークエンサーを用いて全マイクロRNAの量的変化を調べた。できる限り脳病理の進行を反映するように、剖検脳と同一人の生前の血清を解析した結果、マイクロRNA miR-501-3Pが病勢の進行につれて血清で減少し、脳では逆に増加することを見出した。再現性を確認するために異なる臨床診断検体について検討し、miR-501-3Pは症状に伴って変動することが証明でき、臨床診断に有効であると結論づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルツハイマー病の大多数は、7 0歳を超えて罹病率が急増する晩期発症型の神経変性脳疾患である。40歳以前には脳内アミロイド蓄積は観察されない。若年発症の家族性についても40歳前後までは無症候である。老化に伴って孤発性に発症する病態の本質的な病理過程に関わる加齢、性別、食事・運動の生活習慣などの環境因子は大きな発症要因となりえる。ほとんどの病気は、個人ゲノム情報をベースにその遺伝子発現が生体内外の環境の影響を受けて個々の組織・細胞において微妙な相互作用に変化を生じる生体反応と考えられる。 脳は多種多彩なニューロン・グリア細胞から構成され、特定脳部位に局在する細胞集団は特徴的な脳機能を発揮しているが、それらを制御している多様な遺伝子発現産物の中から、非翻訳RNAの変動に注目している。H28年度までにアルツハイマー病の進行に関連する血液中のマイクロRNA miR-501-3Pを同定した。末梢血マイクロRNAの変動を脳内の遺伝子発現と連携して解析する場合、末梢血の変動が脳内の病理変化を反映しているか、脳以外の組織由来の影響によるかを検証することは重要である。脳組織miR-501-3P濃度は、アルツハイマー病脳病理の2大特徴である神経原線維変化(NFT Braak stage)に依存して正の相関を示していた。現在、病巣進展とmiR-501-3P発現変動を脳組織で検討するため、剖検脳をBraak stageで群分けし、脳部位3カ所(嗅内皮質、側頭葉、前頭葉)から抽出した非翻訳RNA及びmRNAの網羅的情報を取得し、それらの統計解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度までヒト脳で発現している低分子RNA及びmRNAを網羅的に次世代シーケンシング法によって収集した。これらのデータに追加して、1)詳細な診療情報や脳画像データが付随した臨床検体を増やし、診療施設間に差がないかを確認する。2)今回見出したmiR-501-3Pが脳病変の進行をどの程度説明できるかを脳組織内病巣の進展とマイクロRNAの変動の関連性を検討する。3)その他のマイクロRNAの修飾について病態との関連性を検討する。4)提供可能な情報を共有するために、学会発表や論文発表または個別的に共同研究者と情報交換をする。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度までに既存の血清と脳組織を中心に遺伝子発現解析をおこなって、血清診断バイオマーカーとして新しいマイクロRNAを同定した。この血清マイクロRNAの生物学的意義について、とくにヒト剖検脳組織を追加して検証する。前年度と次年度の成果を論文や学会発表にまとめて国内外に発信し、アルツハイマー病の予防と治療に役立てるための費用が必要である。
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次年度使用額の使用計画 |
臨床検体で同定したマイクロRNAを培養細胞及び新規ヒト剖検脳を用いた生物学的検証研究を予定している。そのための細胞培養試薬、次世代シークエンサーの反応試薬、などの実験用試薬を購入する。研究成果発表の論文作成と学会発表の旅費に当てる。
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