本研究では、申請者らが独自に開発したペプチド核酸搭載クロマトグラフィーによるウイルスゲノムの高感度可視化法、及びペプチド核酸へのナフタレン型のジフェニルアセチレン導入によるゲノム1塩基変異の高感度識別を利用して、インフルエンザウイルスの薬剤耐性をその場で高感度に可視化する革新的な手法の開発を目指した。 現在、臨床現場で用いられているインフルエンザ治療薬は、インフルエンザウイルスが感染細胞内で増殖後、ウイルスが細胞外へ出芽する際に利用するノイラミニダーゼ(酵素)へ結合し、その酵素活性を抑制するものが主流である。しかし近年、このノイラミニダーゼのアミノ酸配列で274番目のヒスチジンがチロシンへと変異したウイルス株がノイラミニダーゼ阻害剤に耐性を持つことが報告されている。そこで、我々はこのノイラミニダーゼの遺伝子配列の1塩基変異に着目し、この遺伝子配列を配列選択的に検出できるペプチド核酸の合成を行った。 その結果、ノイラミニダーゼ耐性ウイルスの遺伝子に塩基相補的なペプチド核酸は、ノイラミニダーゼ感受性のウイルス遺伝子にも非特異的位に結合することがわかった。そこで、ペプチド核酸のアミノ末端にトラン(ジフェニルアセチレン)を導入して、標的遺伝子に対する配列選択性を高めることを目指した。その結果、ペプチド核酸にナフタレン型のトラン誘導体を導入すると、そのRNA配列識別能が高くなること確認した。 続いて、前記トラン修飾ペプチド核酸をラテラルフロー上に固定化し、インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ阻害剤耐性、感受性を検出できるか評価した。その結果、トラン修飾ペプチド核酸はノイラミニダーゼ阻害剤耐性ゲノムを配列選択的に検出できることを確認した。
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