研究課題/領域番号 |
16K14653
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大出 晃士 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (40612122)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 蛋白質ネットワーク / 透明化組織イメージング / 質量分析 / プロテオミクス |
研究実績の概要 |
透明化組織の局所からプロテオミクス情報を取得する手法の開発を行っている。特に、オリジナルのプロトコルで透明化のために用いられている試薬が 1) プロテアーゼ反応を阻害していること、および、2) 液体クロマトグラフィーのラインに強つ付着し測定の信頼度を著しく損なうことが明らかとなった。1)については、計画段階である程度予想されていたが、2) については実験の遂行と評価そのものに大きな影響を及ぼすために、根本的な解決が必要となった。 そこで、これらを解決するために、複数の透明化試薬候補を用いて、プロテアーゼ消化および、LC-MSの測定に影響を与えない透明化試薬の選定を行った。透明化組織と培養細胞、さらに精製タンパク質を用いたスクリーニング系を新規に開発し、透明化効率と、質量分析解析への親和性を両立する試薬セットを検索した。この結果、両者に影響を与えないばかりか、一般的にプロテアーゼ消化を行う条件よりも、消化効率を上昇させる試薬を見出した。これは、おそらく、基質タンパク質をアンフォールドしプロテアーゼ反応を促進させるがプロテアーゼを変性させるには至らない適度なタンパク質変性作用を有するためと予想される。この発見により、質量分析計に適した組織透明化手法のための試薬組成を整えることに成功した。 また、この過程でサンプル脱塩時のペプチドトラップ効率を評価するデータ解析手法を考案し、ペプチドロスの少ないサンプル調製法の改良を行うことで、プロテオミクス解析の高感度化を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
透明化試薬を見直すことで、当初の計画を超えて、LC-MSを用いた解析に問題なく供することが可能でありながら、一般的なプロテアーゼ消化プロトコルを超える蛋白質消化効率を達成する新たな透明化試薬セットを見出したことは、計画以上に大きな進展があったと評価できる。
また、疎水性固層上にペプチドをトラップする際に、ペプチドの疎水性の違いによってトラップ効率が異なる問題に対して、ペプチドのトラップ効率をペプチドの疎水性の指標に従って定量的に評価する手法を開発し、広い疎水性範囲のペプチドをできるだけ均一にトラップするための条件設定を定量的に行うことが可能となった。
一方で、透明化組織の局所から半自動的にサンプルを取得する機械制御系の立ち上げには遅れが見られるが、上述した試薬スクリーニングが計画上最も時間を要するステップであるため、全体計画に与える影響は限定的である。これらを総合して判断すると、概ね順調に進展してると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
開発した透明化試薬セットを用いて透明化したマウス組織を用いて、イメージング、およびサンプル局所からのプロテオミクス情報の取得を行う。透明化プロトコルの確定を受けて、H29年度は限定的な位置で蛋白質消化を確実に行う手法の開発に軸足を移行する。特に、プロテアーゼが拡散する危険性を排除するために、微細シリンジを用いて(シリンジ内側をプロテアーゼコートする手法を計画している)、透明化組織を局所的に取り囲む形でプロテアーゼ消化する方法を試みる。
また、これまでの研究によって、プロテアーゼ消化を標準的なプロテオミクス試薬組成よりも促進することが明らかとなった透明化試薬に関しては、種々の条件(サンプル)でその性能比較を行う。これにより、質量分析計と親和性のよい透明化試薬として確立するとともに、その性能に応じてプロテオミクス分野での新たなプロテアーゼ消化補助剤としての利用を念頭においた発表を目指す。
局所消化に成功すれば、直ちに計画通りマーカー蛋白質発現マウスを用いた局所プロテオミクス情報の取得に着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
透明化試薬が質量分析計の測定そのものの安定性に負の影響を与えることが明らかとなったために、サンプル局所にプロテアーゼプローブを届けるための機械制御機構の開発に先駆けて、透明化試薬スクリーニングを中心的に行った。このため、画像処理と機械制御に関係する物品の購入を見送ったことに依る。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の問題点を試薬スクリーニングによって克服したため、次年度に予定通り画像処理と機械制御に関係する物品の購入を行う。
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