本研究の目的はゲノム中の特定の領域の進化を加速させるような分子システムおよびそのシステム自体が自身を標的とすることによって自己進化するような機構を構築し、その分子進化過程の系統解析等によって機能変化に至る変異の推移を明らかとし、強力な自己進化システムを構築することである。 昨年度までに、DNA脱塩基反応を行うDNA Glycosylase(酵母由来)とCRISPR-Cas9システムを融合させたTarget-Gシステムを構築し、酵母細胞内で標的配列近傍に様々な変異を導入する標的進化加速を実現し、また実際に得られる導入変異データの解析手法として次世代シーケンサーを用いた一連の解析パイプラインの整備を完了することができた。本年度は、進化と酵素の特性との相関性を導きだし、有用な性質の効率的な探索と改良、および進化工学を実現するため、様々な生物由来の、異なる進化段階にあるDNA Glycosylaseを比較することとした。具体的にはウイルス、大腸菌および植物由来のGlycosylaseの配列をデータベースより取得、人工遺伝子としてコドン最適化を加えてクローニングした。ウイルス由来のものは、変異導入幅が狭く、よりフォーカスした変異導入に有効と考えられた。また別のコンポーネントが活性に必要であった。大腸菌由来は活性が高いが細胞毒性も強く、クローニング操作が困難であったが、活性のポテンシャルが高いため、進化母体として有望と思われた。植物由来は概して活性が低く、これは本来の性質なのか、あるいは宿主に依存する追加のファクターが必要である可能性が示唆され、応用性は低いと判断された。これらより、異なる由来の酵素を母体とすることによって変異導入領域の幅を調整できるようになり、進化領域の幅設定の自由度を上げることができた。また実際にこれらの異なる酵素を自己進化系に組み込むためのベクター構築も行い、実際に酵母細胞での自己進化遺伝子実験の基盤を構築することができた。
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