ウイルスゲノムの人工構築を目指して、大腸菌RNAウイルスQβ(Qβファージ)のcDNAを機能ユニット(モジュール)に分割した。本研究では、cDNAはファージゲノムRNAをDNAに変換した相補DNAを指す。部位特異的変異作製法により遺伝子DNA両側にユニークな制限酵素切断配列を導入し、ゲノムが3個の遺伝子(A2、C+RT、R)ユニットと遺伝子発現調節領域を含む4個の非遺伝子(5’-UTR、A2/C、RT/R、3’-UTR)ユニットで構成される感染性cDNAプラスミドpQβ-TUを作製した。感染性 cDNAプラスミドは、宿主菌中でファージを産生するプラスミドである。さらに、C遺伝子発現調節領域(A2/C)にリボソーム結合配列 (SD配列)を導入し、且つ同領域に存在するRNA二次構造を壊した2種類の感染性cDNAプラスミドpQβ-TU12とpQβ-TU16を作製した。微生物ゲノムを出し入れ可能なモジュール構造に分割したのは本研究が最初であり、Qβゲノムの再構築および異なるウイルス間でのキメラゲノムの作製が可能になった。SD配列の導入によりC遺伝子発現が増加したが、ファージ産生が起きない場合があった。A2/C領域はファージRNA複製酵素の結合部位と重複するが、リアルタイムPCR 解析により、上記の場合でもファージRNA合成は抑制されないことがわかった。そして、A2/C領域のファージ粒子形成への関与、C遺伝子発現増加に伴なう溶菌遺伝子発現の促進が引き起こす早期溶菌の可能性など、新たなアイディアが生まれた。一方、pQβ-TUのA2遺伝子をSPファージA2遺伝子で置換したキメラcDNAを作製したが、ファージは産生されなかった。Qβ~SP間ではA2タンパク質は互換性があるので、原因はQβゲノムRNA立体構造の変化によるA2遺伝子発現あるいはRNA複製の阻害によると推測された。
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