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2016 年度 実施状況報告書

コーディングRNAから捨てられたノンコーディングRNAが生かされる仕組み

研究課題

研究課題/領域番号 16K14659
研究機関藤田保健衛生大学

研究代表者

前田 明  藤田保健衛生大学, 総合医科学研究所, 教授 (50212204)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2018-03-31
キーワード遺伝子発現調節 / ノンコーディングRNA / 環状RNA / スプライシング / ciRS-7
研究実績の概要

次世代シーケンサーによる転写物の大規模解析(RNA-seq)によって、ヒト、マウス、線虫で数千個の環状RNA(circRNA)が組織・発生段階特異的に発現していることがわかり、その存在意義が世界的に注目されている。最初に機能が明らかにされたcircRNA は、ciRS-7(CDR1as)であり、マイクロRNA(miRNA)のmiR-7の吸着材として働き、miR-7の機能を抑制している。この重要なcircRNAの生合成の仕組みを明らかにする事が第一の課題であった。
mRNA前駆体からcircRNAが作られる経路には2つの仮説がある: ① 逆向きに向かい合う2つの反復配列(Alu)配列の塩基対合によりループ構造を作り、環状化されるエクソンの下流5’スプライス部位から上流3’スプライス部位への逆方向のスプライシングが起こる「逆位スプライシング説」と、② エクソンを除外するスプライシングにより切り出されたイントロンとエクソンを含む投縄状RNAが再びスプライシングを受けてエクソンが環状化する「再スプライシング説」である。
(1)ヒト脳の大規模転写物(RNA-Seq)データから、約8万塩基長の5つのイントロンを含むciRS-7前駆体転写物を確認した。(2)アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたスプライス部位阻害実験により、上記の2つの経路を区別できることが分かり、実験結果は「逆位スプライシング説」を示唆した。(3)ciRS-7エクソンの上流と下流には相補的Alu配列は見つからなかったが、代わりに相補的MIR(mammalian-wide interspersed repeat)配列を発見した。(4)ciRS-7(+/-MIR配列)のレポーターを作製し、MIR配列依存的にciRS-7が産生することを確認した。以上の結果から、機能性circRNAであるciRS-7の生合成経路が解明された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

最初に生物学的機能が見つかった環状RNA(circRNA)であるciRS-7(CDR1as)はマイクロRNA(miRNA)の一種miR-7の吸着材として働き、miR-7の遺伝子発現抑制機能を抑制している [Nature 495, 333-338; ibid., 384-388 (2012)]。従って、その生合成メカニズムの解明は極めて重要であるが、世界的に見ても取り組んでいる研究室はなかった。それ故に、本科研費の第一の研究課題としていた。
精力的な実験によって予想以上の進展がみられ、初年度(平成28年度)中に、その生合成の全貌を明らかにする事ができ、国際会議で成果を口頭発表し、専門家から高い評価を受けた。現在は論文を準備中である。

今後の研究の推進方策

ciRS-7が核内のスプライシング反応を利用して生合成されるメカニズムを明らかにする事ができたが、そのciRS-7が機能するため、すなわちmiR-7に吸着するためには、細胞質に輸送されなければならない。環状RNAの核外輸送経路については世界的に全く研究されてない。今年度(平成29年度)は、ciRS-7の核外輸送経路を明らかにする計画である。
核、細胞質に分けた分画から抽出したRNAのRNA-Seqデータセットの解析から、circRNAは、そのほとんどが細胞質に安定して存在している事が分かった。しかしciRS-7発現レポーターを培養細胞に導入すると、circRNAの大部分は核に局在していた。以下の3つの問題を解明する。① スプライシングを経由するcircRNA上にはエクソン接合部複合体(EJC)が結合すると推察されるが、EJC依存的な核外輸送が起こっているのか? ② mRNA核外輸送に必須のTREX複合体がキャップ非依存的にcircRNA上に形成されるのか? ③ TREX複合体に依存しない新しい核外輸送系が関与しているのか?
アフリカツメガエル卵母細胞を使ったRNA輸送解析系を熟知している大野研究室(京都大学・ウイルス研究所)との共同研究を行う。核に微量注入されたciRS-7発現レポーター(イントロンを含むプラスミド)が、スプライシング反応を経てcircRNAとなり、細胞質へ輸送される事をまず確認する。circRNAの輸送経路の同定には、特異的阻害実験が使える。レトロウイルスの核外輸送配列CTEで競合阻害されるのであれば、TAP蛋白質が関与するmRNA輸送経路、核外輸送信号受容体CRM1の阻害剤である抗生物質LMBで競合阻害されるなら、CRM1が関与するU snRNA、rRNAの輸送経路である。この実験でcircRNAの核外輸送が既知の経路で行われているかどうかが確認できる。

備考

研究室のホームページである。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2016 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Endogenous multiple exon skipping and back-splicing at the DMD mutation hotspot.2016

    • 著者名/発表者名
      H. Suzuki, Y. Aoki, T. Kameyama, T. Saito, S. Masuda, J. Tanihata, T. Nagata, A. Mayeda, S. Takeda, T. Tsukahara
    • 雑誌名

      Int. J. Mol. Sci.

      巻: 17 ページ: E1722

    • DOI

      DOI: 10.3390/ijms17101722

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 環状RNA(circRNA)2016

    • 著者名/発表者名
      芳本玲, 前田 明
    • 雑誌名

      ノンコーディングRNA―RNA分子の全体像を俯瞰する(DOJIN BIOSCIENCEシリーズ)

      巻: 25 ページ: 271-279

  • [学会発表] Pre-mRNA splicing generates not only linear conding RNA (mRNA), but also circular non-coding RNA (circRNA)2016

    • 著者名/発表者名
      A. Mayeda
    • 学会等名
      Mini-Symposium on ncRNA
    • 発表場所
      Academia Sinica (Taipei, Taiwan)
    • 年月日
      2016-09-29
    • 招待講演
  • [学会発表] The functional circular RNA, ciRS-7/CDR1as, is biosynthesized from back-splicing promoted by Inverted MIR (not Alu) Elements.2016

    • 著者名/発表者名
      R. Yoshimoto, T.B. Hansen, J. Kjems, A. Mayeda
    • 学会等名
      The 21th Annual Meeting of the RNA Society / The 18th Annual Meeting of the RNA Society of Japan
    • 発表場所
      京都国際会館(京都府、京都市)
    • 年月日
      2016-06-28 – 2016-07-02
    • 国際学会
  • [図書] 実験医学特集号「coding RNAルネッサンス」2016

    • 著者名/発表者名
      片岡 直行, 前田 明
    • 総ページ数
      142
    • 出版者
      羊土社
  • [備考] 藤田保健衛生大学 総合医科学研究所 遺伝子発現機構学研究部門

    • URL

      http://www.fujita-hu.ac.jp/%7Egem-1/

URL: 

公開日: 2018-01-16  

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