コーディングRNAを産生するはずのmRNA前駆体から機能のあるノンコーディングRNAが作られている、しかもその構造は完全なる環状である。次世代高速シーケンサーによるトランスクリプトーム解析によって、ヒトで数千種の環状RNA(circRNA)が組織・発生段階特異的に発現している事が明らかになった。さらにアルツハイマー病、ALSといった神経変性疾患、癌、アテローム性動脈硬化症においてcircRNAとの関わりが相次いで報告されており、転写、スプライシング、翻訳レベルでの遺伝子発現を制御する新奇ノンコーディングRNA群として世界的に注目されている。 2013年にデンマーク、ドイツの両国からciRS-7がマイクロRNA-7(miR-7)をスポンジのように吸着することで機能性circRNAとして働くという発見がなされており。昨年、私たちはこのciRS-7の生合成機構を最初に明らかにした(論文投稿中)。すなわち、ciRS-7コーディングエクソンの上流と下流に存在する哺乳類のSINEである相補的なMIR配列によって、ループ構造を取り、ciRS-7エクソン下流の5'スプライス部位から上流の3'スプライス部位への逆位スプライシングによって環状化される事を証明した。このループ構造を介する逆位スプライシングのメカニズム自体は、すでに報告されているが、相補的な配列として、霊長類特異的なSINEであるAlu配列だけしか知られておらず、霊長類以外のRNAの環状化を説明する事ができなかった。私たちの発見によって、哺乳類全般におけるcircRNA生合成が逆位スプライシングで起こっている事実を、合理的に保証できるようになった。
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