研究課題/領域番号 |
16K14667
|
研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
幸田 尚 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (60211893)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | メチルシトシン / エピゲノム / バイサルファイト反応 / マイクロカプセル |
研究実績の概要 |
本研究は、単一細胞レベルでのエピゲノム解析を行うための基礎的な要素技術の開発を行うものである。 メチルシトシン解析のためのbisulfite sequencingは、シトシンをウラシルに変換する反応において同時にDNAの切断が起こるため、微量サンプルからの解析は困難である。本研究では個々の細胞をマイクロカプセルに封入した状態でbisulfite反応を行い、さらにPCR増幅、次世代シークエンサー用のライブラリー調整などを行う実験系を構築することによって、単一細胞レベルでのゲノムDNAのシトシン修飾解析の手法を開発することを目的としている。 これまでもDNAをアガロースビーズに封入してbisulfite処理を行うことで1細胞からの解析効率を向上する手法が提案されているが、アガロースは高温には耐えられないためそのままPCRを行うことはできなかった。またオイル中に分散した液滴中でPCRを行うエマルジョンPCRという手法も用いられるが、オイル中に作られた水溶液の液滴は溶液交換が困難であるため、単一の反応を行うことしかできない。本研究ではbisulfite反応とPCRを同一のマイクロカプセル中で続けて行う実験系を確立することによって、微量のbisulfite法において大きな課題であった解析結果がそもそも何分子に由来していたかが不明な点を克服することで、メチルシトシンの解析法の標準的なプロトコールとして広く使われることが期待される。 初年度では多糖類を用いたマイクロカプセル中にDNAを封入し、bisulfite反応を行ってDNAを回収し、PCR増幅が可能であることを確認することができた。今後、この成果を元に、反応系の至適化を行うとともに、より複雑な反応を同一マイクロカプセル中で行うことで、ごく微量サンプルからのゲノムワイドのbisulfite-seqのためのライブラリ調製法の確立を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「マイクロカプセルを用いたゲノム上の特定領域におけるbisulfite-sequence法の確立」 多糖類を用いたマイクロカプセル中にDNAを封入し、bisulfite反応を行ってDNAを回収し、PCR増幅を行う実験系の検討を行った。DNAを含む液滴を作成するために、スプレーを用いる手法やキャピラリから溶液を滴下する方法などを試み、いずれの場合でも直径100マイクロメートル前後のマイクロカプセルを作成できることを確認した。さらに、このマイクロカプセルをbisulfite溶液に再懸濁して溶液交換が可能であり、bisulfite反応を行ってからDNAを回収可能であることも確認できた。 「Bisulfite反応及びマイクロカプセル作成の条件検討」 bisulfite反応中にDNAがどの程度切断されたかを直接確認するために、1本鎖DNAの5’末端にFITCを付加し、キャピラリシークエンサーでフラグメント解析を行うことでDNAの量及び長さを見積もる手法を確立した。これを用いて、実際にbisulfite反応によってどの程度DNAが切断されたかを直接見積もるとともに、定量PCRを用いて実用的にどの程度のDNAが増幅可能であるかを確認することとし、実際にbisulfite反応の条件の検討を行っている。温度、pH、反応時間、反応液にDNAを保護すると考えられる試薬を添加するなどの検討を開始している。 マイクロカプセルの作成条件については、カプセルの直径を自在にコントロールすることが現時点では困難で、今後の検討が必要と考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
「マイクロカプセル作成の条件検討」 初年度ではいくつかの手法でマイクロカプセルの作成を試みたが、カプセルの直径を自在にコントロールすることが困難であった。そこで、キャピラリーから溶液を滴下する方法で、キャピラリの直径を変更した場合にどの程度液滴の直径が変化するかを検討することを計画している。 「マイクロカプセルの分離法の検討」 マイクロカプセル中で種々の反応を行うためには、頻繁なバッファー置換が必要である。そこで、水溶液中に懸濁しているマイクロカプセルを効率的に分離し、新たな水溶液中に懸濁するために、マイクロカプセル封入前に、マグネタイト粉末などを分散しておき、磁気スタンドを使ってマイクロカプセルを吸着回収することで、容易にバッファー交換が可能になるシステムの構築を試みる。 「ゲノムワイドのbisulfite-seqのためのライブラリ調製法の確立/マイクロカプセル中でのEnIGMA法の確立」 初年度の成果をもとに、whole genome bisulfite sequence法をマイクロカプセル内に応用し、次世代シークエンサーで解析するための実験系を確立する。さらに、EnIGMA法は我々が独自に開発したmC、hmC及びCを同時に1塩基レベルで解析する技術であり、マイクロカプセル中で1細胞ずつ反応を行うことができればさらに強力なエピゲノム解析ツールとなることが期待できる。しかしながら、bisulfite-seq法などと比較すると反応のステップが多いため、実際にマイクロカプセル中での反応については必ずしも見通しが容易ではない。そこで、個々のステップの反応について、マイクロカプセル中で反応が可能であるかを確認し、反応効率をモニターしながら慎重に解析を進め、全体を通してマイクロカプセル中での反応が可能であるかを検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、初年度のうちに次世代シークエンサーを用いたbisulfite-sequence法に用いるライブラリー作成の実験のための試薬を購入して準備を進める予定であった。しかしマイクロカプセルの作成のための条件検討に集中したこと、及び、新たに当初の研究計画作成時には着想に至らなかった、DNAをFITCでラベルすることでbisulfite反応でのDNA分解を直接検定するための実験技術の確立を行なったため、シークエンサー用のライブラリー作成試薬の購入に至らなかったため、比較的大きな次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、シークエンサー関連の試薬について初年度に購入する予定であった分も含めて購入し、実際にwhole genome bisulfite sequence法をマイクロカプセル内に応用し、次世代シークエンサーで解析するための実験系を確立する。
|