研究課題/領域番号 |
16K14672
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
登田 隆 広島大学, 先端物質科学研究科, 特任教授 (50197894)
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研究分担者 |
湯川 格史 広島大学, 先端物質科学研究科, 助教 (50403605)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 動原体 / キネトコア / 微小管 / スピンドル / 染色体分配 / in vitro / 再構築 / TIRF顕微鏡 |
研究実績の概要 |
広範な生命現象を理解する上で各素過程を担う必要最小限因子の同定は生物学上、極めて重要な課題である。染色体分配においてはキネトコア-微小管結合インターフェイスのin vitro再構成がそれに該当するが、実験的にその試みは未だ成功していない。申請者は遺伝学が容易かつ進化上保存の観点から真核生物のすぐれたモデル系であると広く認知されている分裂酵母を用いた実験から、動原体構成タンパク質であるヒトまで広く保存されたNdc80分子中央部に存在するループ領域が微小管結合タンパク質Dis1、およびAlp7-Alp14複合体と直接結合することによって、キネトコア-微小管間の強固な接着がおこることを他の研究者に先駆けてはじめて示した。すなわちNdc80とこれら微小管結合タンパク質さえ混合すれば、微小管存在下において特異的結合を再現できるのではないかと考えるに至った。 本研究では、まず分裂酵母Alp7とAlp14タンパク質の大腸菌での発現、精製に成功した。次にDis1タンパク質の発現・精製を目指し実験を進め、その目的を達成した。さらに微小管タンパク質Mal3/EB1も大腸菌より精製した。in vitroでこれらのペアのタンパク質(Alp7とAlp14、Dis1とMal3)を混合したところ、それぞれ直接結合することがわかった 。Ndc80複合体(4つのサブユニットからなる)に関しては現在大腸菌での発現・精製に取り掛かっている。 自己評価としてはDis1タンパク質の生化学的・生物物理的解析、およびMal3/EB1との直接結合が示せたので、概ね予想以上の成果を上げることができたと判断した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は次のプログラムを設定し、申請書に記載した。現在の状況、これからの推進方策を以下、記述する。 大腸菌でのGFPを連結したNdc80複合体, Dis1, Alp7, Alp14タンパク質の発現と精製 大腸菌でDis1, Alp7, Alp14、Mal3の各タンパク質を発現させて、単一標品にまで精製することに成功した。Ndc80複合体(Ndc80-Nuf2-Spc24-Spc25の4つのサブユニットからなる)については、4つのタンパク質を同時に発現できるヴェクタープラスミドを現在構築中である。Dis1, Alp14については、微小管ポリメラーゼ活性の検出に成功した。今後はAlp7、Mal3とこれらのタンパク質を混合し、ポリメラーゼ活性・微小管結合能の変化に関して、詳細な解析を行う予定である。 他の生物の相同タンパク質に比べてAlp14, Dis1のポリメラーゼ活性に若干低い値を現在得ている。その原因として、次の3つの可能性が考えられる。実験条件の違いによるものか、これらタンパク質がもともと持つ(intrinsic)な性質のためか、あるいは制御因子(Mal3, Alp7)がポリメラーゼ活性上昇に必要なのか。精製lp7, Mal3タンパク質と混合することによって、検証する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方針に関して、以下箇条書きにして記述する。 1)Alp7とAlp14の生化学的解析:現在Alp14,、Dis1が微小管ポリメラーゼ活性を持つことを示すことができた。しかしその活性値は予想に比して、低いものであった。この原因を究明するため、反応条件の詳細な検討、最適条件の探索が必須である。一方これまでの酵母遺伝学的解析からAlp14はAlp7と、Dis1はMal3と複合体を形成して細胞内で機能することがわかっている。今回確立したin vitro系にAlp7、Mal3を加えてAlp7-Alp14、およびMal3-Dis1複合体のポリメラーゼ活性を測定する必要がある。 2)Ndc80複合体の再構築:現在既に4つのサブユニット発現系はほぼ完成の状態にある。大腸菌でこれらを同時に発現させ、複合体形成・精製にまでもっていきたい。その後はNdc80複合体の微小管結合能の査定、それにさらにDis1(+Mal3)、Alp14(+Alp7)を混合し、Ndc80の微小管上での挙動に変化が見られるか。さらに微小管ダイナミクスが促進されるかどうかという本申請の本題へと研究を伸展されていく計画である。予想される困難としてはNdc80複合体が大腸菌では、不溶性・低発現のため、in vitro再構築ができない可能性である。その問題に対処するためbaculo系(Baculovirus Expression Vector System)の使用も視野に入れてなければならないと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に購入・使用を計画していた物品のうち、TIRF顕微鏡観察に必要な試薬類(特別仕様スライドグラス、及び資料調整薬剤)が、予定の半分必要であり、その差額の経費が必要でなくなった(約40万円)。実験は予定通り遂行できたが、繰り返しを見越していた実験が再実験の必要でなくなったためである。また計上していた旅費も予定の半分の費用(60万円のうち30万円)で計画していた学会に出席でき、また他の研究者との研究打ち合わせも行うことができた。従って、消耗品・旅費合わせて、計約70万円が次年度先送りとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度からの研究費も繰越しのおかげで、平成29年度は、TIRF顕微鏡を用いた実験の種類を増やすことができる。またその為の大腸菌からのタンパク質精製のスケールアップを図り、大量の精製タンパク質の調整が可能となった。そのため、特別仕様スライドグラス、及び資料調整薬剤、及びタンパク質精製のためのゲル濾過カラムを購入する予定である。海外学会を含めた研究会への参加についても、昨年度からの持ち越し金を考慮に入れて複数のミーテイングに参加する予定である。それによって関連分野の研究者とのさらなる交流、最新の情報収集が可能になると思われる。
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