研究課題/領域番号 |
16K14677
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
姚 閔 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (40311518)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 中性子線結晶構造解析 / タンパク質結晶成長 / ゲル / 温度応答ポリマー / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
中性子線を利用した構造解析は,タンパク質等の生体高分子の生理機能に直接関与する水素原子や水分子の位置を精度よく決定できるため,潜在的な利用価値は高いが,非常に大型の結晶を必要とするために,現時点での利用は限定的である. 本研究では,中性子線構造解析のための良質な大型結晶を作製する技術を,LCST型温度応答ポリマーを利用して確立することを目的とする.その目標を達成するために,H27年度には,タンパク質GatCAB複合体,セロビオース2-エピメラーゼCE,tRNA成熟化酵素Trilのligaseドメイン,毒素Vip3Aなど,合計4種類のサンプルを用いてLCST型温度応答ポリマーの汎用性,多様な結晶化条件に対する適応性を検討した.その結果,塩濃度の高い結晶化条件には適応できないことがわかった.その後,LCST型温度応答ポリマーを用いて,結晶化条件を最適化し,GatCAB複合体とCE結晶のサイズがそれぞれ,>3立方ミリメートル超,1立方ミリメートルまで成長することができた.また,ポリマーの濃度がタンパク質の結晶成長に与える影響を確認したところ,バッチ法を用いてポリマーの濃度1-2%程度のときが最も効果的であることが分かった.結晶の体積が3立方ミリメートルを超えるGatCABの結晶を得たので,中性子線回折データを測定するための重水置換の実験も進めた.重水置換はソーキング法と共結晶化法を試みたが,共結晶化法で得られた結果の分解能が若干高かった.さらに,得られた巨大GatCAB結晶を用いて,ドイツのガーヒンクMLZにて中性子線回折実験を行い,約3.2Å;の反射を確認することができた. 以上の結果は,申請者が考えたようにLCST型温度応答ポリマーは中性子線回折用の巨大結晶の汎用的な結晶成長法にとって非常に有望であることを示している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水素の可視化にとって有効な方法である中性子線結晶構造解析は,巨大な結晶を必要とするために,解析の成功例は極めて少ない.それは,巨大な結晶の作製が極めて困難であるからである.本研究では,LCST型温度応答ポリマーを利用して,大型結晶の作製法を確立することを目指している.H27年度の研究は,所期の計画の通りに進み,その結果,LCST型温度応答ポリマーの利用が大型結晶の成長に有効であることが確認できた. 以上より,本研究はおおむねに順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
H27年度に引き続き,計画通りに、下記のように研究を進める. (1) LCST型温度応答ポリマーの汎用性,多様な結晶化条件に対する適当性の検討:サンプルの調製の難易度と時間を考え,サンプルを3種類(GatCAB, CE, Tril1_ligase)に絞りテストを行う. (2) LCST型温度応答ポリマーの効果の原理の追求:大型結晶の成長に有効なLCST型温度応答ポリマーを見つけたので,結晶成長に対する効果の原理を追求する.温度変化に対するゲル化率を測定して,結晶成長に対する効果との間の相関を調べる.同時に,結晶成長に伴う溶液のエントロピー変化を見積もり,結晶成長に対する効果との相関を調べる.以上の実験から,LCST型温度応答ポリマーの結晶成長に対する効果のメカニズムの解明を目指す. (3) GatCABの中性子線構造解析:重水を用いた共結晶化によって,GatCABの中性子線構造解析用の大型結晶が得られたので,中性子線構造解析を行う.回折データの測定は中性子線施設(茨城県J-PARCとドイツ ガーヒンクMLZ)にて行い,それを利用して中性子結晶構造解析を試みる.
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