研究実績の概要 |
中性子線を利用した構造解析は,タンパク質等の生理機能に直接関与する水素原子や水分子の位置を精度よく決定できるため,潜在的な利用価値は高いが,巨大結晶を必要とするために,現時点での利用は限定的である.本研究では,中性子線構造解析のための良質な大型結晶を作製する技術を確立することを目的とする. その目標を達成するために,平成28年度に,数種類のサンプルを用いてLCST型温度応答ポリマーの利用が大型結晶の成長に有効であることが確認できた.また,そのポリマーは,塩の高い結晶化条件に適用しないことが分かったので,平成29年度は,結晶条件に塩濃度の低い,もしくは塩のないGatCAB,セロビオース2-エピメラーゼCE,tRNA成熟化酵素Trl1のligaseドメインに縛って,大型結晶の作成法の改良を継続的に行った.また,GatCABと基質Glnとの複合体の共結晶も重水条件で行い,巨大結晶が得られた.その結晶を用いてX線構造解析法で確認したところ,基質GlnがGatAの活性部位に結合していることが確認できた.そこで,得られたGatCABとGatCAB-Glnの重水置換した結晶を用いて,ドイツの中性子施設MLZにて,それぞれ,3.2と2.8Å分解能のデータを収集し,中性子線の構造に成功した.現在X線回折と中性子線回折データを合わせて,joint-refinementを行っている. また,LCST型温度応答ポリマーが,結晶成長に対して,どのように影響するかを検討するため,結晶化溶液の温度変化と共に,タンパク質の溶解度を測定し,タンパク質結晶成長に伴う溶液のエントロピー変化の見積もりを試みた.その結果,LCST型温度応答ポリマーを加えることによって,結晶成長中に溶液のエントロピー変化量の変化が見られた.このことから,結晶成長とともに生じていた温度変化によってLCST型温度応答ポリマーの相転移が起こり,その相転移はタンパク質結晶の周辺にある水の状態を変化させると考えられる.
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