ダイヤモンドNVC(Nitrogen Vacancy Center)が発する蛍光は、周囲の磁場に敏感であることから、超高感度な磁気センサーとしての利用が精力的に研究されている。本課題では、タンパク質1分子のNMR・電子スピン共鳴(ESR)の計測を念頭に、タンパク質のナノダイヤによる標識法を確立し、光検出磁気共鳴の検出を目指した。
まず、HEK293細胞の細胞膜に発現させたBL-tag融合IL-18受容体(BL-IL-18R)をテトラメチルローダミン(TMR)で蛍光標識し、全反射照明蛍光顕微鏡を使って1分子観察を行った。複数の分子の軌跡を記録し、そこからBL-IL-18Rの膜上での並進拡散係数を求めた。次に、このBL-tagにナノダイヤ(ND)を繋ぐことを試みた。NDの親水性を向上させるために、その表面を分岐鎖PEGで被覆した。さらに、BL-tagに繋ぐためにPEG末端にアンピシリンを繋いだ。そして、基本的にはTMRの場合と同様の反応でBL-IL-18RにNDを繋いだ。このND-BL-IL-18Rを全反射照明蛍光顕微鏡を使って1分子観察を行ったところ、その軌跡を追跡することに成功した。以上から、NDで細胞膜受容体を標識する方法が確立できた。また、その並進拡散係数は先のTMRと同程度であり、1回膜貫通のタンパク質として妥当な値であった。
続いて、この細胞膜上のND-BL-IL-18Rを、別途作製してあった光検出磁気共鳴を検出するための顕微鏡で観察した。しかしながら、光検出磁気共鳴の信号を検出することは出来なかった。その原因は、当該の信号は時系列的に取得した蛍光画像フレーム間の差分を計算して得られるが、NDの蛍光強度が一定せず、フレーム間でND蛍光が大きく揺らいでしまうことにあった。より高感度な蛍光検出を行うことと、検出の時間分解能を上げていくことで、揺らぎの影響を小さくすることでND由来の磁気共鳴信号の検出が可能になると考えられる。
|