溶液NMRによる蛋白質の立体構造解析にはX線の分子置換法に相当する技術が存在せず、未だに立体構造決定に多大な時間を要している。そこで本研究ではNMRによる蛋白質の立体構造解析を劇的に高速化する新規手法「NMR分子置換法」を開発することを目的としている。具体的には、阪大独自のNMR統合解析ソフトMagROを拡張発展させ、配列類似性の高い蛋白質の既知構造を立体構造解析の鋳型として用いる完全自動NMR構造解析システムの開発を目指している。本研究では、(1)自動化学シフト帰属の評価法の確立、(2)花成ホルモン受容体の試料調製、(3)類似蛋白質の既知構造を鋳型として利用する完全自動NMR構造解析システムの開発、および、(4)花成ホルモン受容体の立体構造解析への適用を計画し、これらに取り組んだ。その成果は以下の通り。 (1)自動化学シフト帰属の評価法の確立では、150残基程度の小さな蛋白質に適用可能な鋳型構造を用いない簡易型完全自動NMR構造解析システムの開発に成功し、自動化学シフト帰属の評価法を確立した。(2)花成ホルモン受容体の試料調製では、無細胞蛋白質合成系などを活用して重水素標識やアミノ酸選択標識に成功した。(3)類似蛋白質の既知構造を鋳型として利用する完全自動NMR構造解析システムの開発では、メチル基選択的軽水素標識体を用いたメチル基領域の4D高分解能NOESYの測定とその解析に成功した。さらに、MagROを拡張発展させ、簡易型完全自動NMR構造解析システムにメチル領域の解析ルーチンを組み込むことにも成功した。(4)花成ホルモン受容体の立体構造解析への適用では、主鎖の7割ほどの信号帰属に成功し、運動性に富む領域が存在することを見い出した。
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