研究課題/領域番号 |
16K14683
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
池上 貴久 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (20283939)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | NMR / 選択的標識 / 安定同位体 / 帰属 |
研究実績の概要 |
NMR を使ってタンパク質を解析する場合、まずはどの共鳴値がどの原子核からの信号に対応しているかの帰属が必要である。これまでの帰属では、1H-15N アミド基をもとにして、そこから発展させるように帰属の範囲を拡げていた。しかし、高温や高めの pH 条件で測定すると、アミド基水素が水の水素と速く交換するため、必ずしも全ての条件で NMR の解析が容易にできるわけではなかった。さらに、unfold したタンパク質では、1H-15N の共鳴値が全ての残基で似た値をとるため、ピークがスペクトル上で凝集してしまい解析できなくなるという欠点もあった。そこで、Ca 炭素やメチル基炭素などを 13C 安定同位体で選択的に標識し、それらの共鳴値を基軸として帰属を進めていく方法を提案した。まず、13C-13C どうしの 1J-スカラーカップリングを無くすために、遺伝子組み換え大腸菌を [1-13C]-glucose や [2-13C]-glucose を入れた培地で培養し、タンパク質を発現させた。最初は標識の度合いを評価するために 50 残基からなる信号感度の高いキチナーゼを使った。その結果、計画どおり芳香環残基の6つの炭素が1つおきに 13C にて標識されたタンパク質を精製することができた。それを使って、芳香環部分の緩和分散 relaxation dispersion と交差相関緩和 cross-correlated relaxation を測定し、芳香環のダイナミクスを解析することができた。さらに、大きなタンパク質に挑戦するため、150kDa の GAPDH を発現させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対象としているタンパク質 GAPDH は大腸菌での発現時に folding がうまく行かず、inclusion body となって沈殿するという現象に悩まされた。しかし、発現系プラスミドや発現時の条件をさまざまに最適化することにより、活性をもった GAPDH の精製に成功した。そこで、2H, 15N, 1H/13C-メチル基選択的標識を行った結果、メチル基(Ile)のピークを全て観測することができた。しかし、若干の protease が不純物として最終精製試料に残っており、長期間の測定中に分解が生じたことから、現在はこれを防ぐ対策を検討している。今のところ阻害剤カクテルを入れることにより9割ぐらいの分解を抑えることができている。
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今後の研究の推進方策 |
GAPDH の調製法がほぼ確立したので、次は 2H, 13C, 15N 安定同位体を GAPDH に導入し、13C 核を基軸に帰属を行う。また、野生体は4量体の 150kDa であるが、これを2量体に小さくする変異体、および、N-末端ドメインだけの単量体の調製にも成功したので、帰属の作業を両者で並行して行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
対象とするタンパク質である Glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)を大腸菌で発現させた際に凝集するという現象が生じてしまい、それを克服するために半年近くの時間を費やした。そのため、高価な安定同位体を使って本格的な培養をする量が今年度は少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の GAPDH を fold した状態で、かつ活性のある状態で発現させることに成功したので、問題はほぼ解決した。そこで、今年度に使えなかった安定同位体などの試薬を使って 2H, 13C, 15N 標識に挑む。さらに、前年度に計画していた分の試料調製もまとめて行う予定である。
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