研究実績の概要 |
核磁気共鳴は蛋白質の立体構造を決定することができるだけでなく、リガンドとの相互作用やアロステリック構造交換などのダイナミクスをも解析することができるため、創薬の分野においても重宝されている。しかし、その際の欠点として、対象とする蛋白質が高分子量の場合、帰属が非常に困難となることが挙げられる。高分子量でも感度を上げるための方法として重水素化および高温での測定がしばしば実施される。しかし、高温ではアミド水素が溶媒水の水素と高速に交換するため、アミド水素を基軸とした従来の帰属法が使えない。そこで、溶媒との交換に無関係な 13Ca, 13Co を基軸として帰属を進める方法を提案した。 この実施においては4量体で 150kDa の酵素蛋白質を用いた。昨年度はこの酵素が impurity のプロテアーゼにより分解され実験を遅らせていたが、この蛋白質に His-tag を融合して効率よく精製することにより、非特異的分解を抑えることができた。さらに、His-tag が蛋白質の folding を邪魔することが予想されたが、活性を十分に持っており、精製過程で His-tag を酵素切断すれば問題ないことが確認された。さらに、これの2量体変異体、および好熱性バチルス菌由来だけでなく、ヒト由来の酵素をも精製することができた。上記に加えて、腸球菌由来の2量体酵素 50kDa の 2H, 13C, 15N 標識体を調製し、それらの主鎖の帰属を終えた。 これらの蛋白質を使い pH6, pH8, 303K, 313K にて 13C 核を直接測定した。アミド水素を基軸とした測定とは異なり、高めの pH でも感度の劣化は見られなかった。むしろ蛋白質の等電点から遠ざかったため感度が上昇した。さらに、高温で測定するほど感度が高くなった。ただし、絶対的な感度は依然として非常に低く、この克服が課題となった。
|