研究実績の概要 |
X 線結晶構造解析や電子顕微鏡に比べて、NMR は蛋白質の立体構造の決定という観点では劣っているかもしれない。しかし、相互作用、活性、ダイナミクスなども解析できるという点で優れており、何よりそれらの情報が原子レベルの分解能で取得できるという点は非常に魅力的である。しかし、NMR ピークを蛋白質の各原子に帰属する作業は、対象が高分子になるほど極端に難しくなる。その一つの要因として、帰属の過程では、アミド基 1H/15N を連鎖帰属のピボットとしていることにある。筆者はこれを 13Ca, 13Co に移すことにより、高い pH、高分子にも適用する方法を試みた。 対象として4量体で 150 kDa の蛋白質 GAPDH を選んだ。この試料は好熱性バチルス菌由来であるので、温度が 40 度程度でも安定なはずであるが、不純物のプロテアーゼにより分解された。その対策に時間を要したが、His-tag の切断酵素を thrombin から Hrv3c に替えることにより克服することができた。 この試料を用いて、各種 13C スペクトルを測定した。一見、ピークが正常に観測されたが、これらはループ部分などフレキシブルな領域に集中しており、感度の点で悪いことが分かった。そこで、100 残基程度の蛋白質も参照として測定した結果、それらは何の問題もなく解析に足るスペクトルがとれることが分かった。 測定にはクライオプローブを備えた 800MHz NMR を用いており、かつ 13C プリアンプも冷却されている。このような最先端装置をもってしても、依然として 13C 磁化移動スタート、13C 検出は感度的に低く、これを克服するには、濃度を 1mM 程度に高める、温度を 50 度のように高くする、あるいは、磁化移動のスタートを 1H にするなどの工夫が必要であると考えられる。
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