研究実績の概要 |
脂質のキュービック相とスポンジ相を合わせたメソフェーズは膜タンパク質の結晶化に有用だが、安定なメソフェーズを実現する脂質はモノオレイン(MO)に代表される少数のモノアシルグリセロール(MAG)に限られてきた。我々は安定なメソフェーズを持つイソプレノイド鎖型脂質(IPCL)であるEROCOC17+4を見出し、その有用性の検証の為にアデノシンA2A受容体(A2AR)の結晶化を試みた。 2016年度は4~25°Cの広い範囲でA2ARの結晶化に成功、MOを用いた1.8 Å分解能の結晶構造(4EIY, Liu W. et al, Science 337, 232, 2012)に及ばずも、クライオ温度において2.0 Å分解能で構造決定した。 2017年度は大量の高密度結晶の作成に成功、X線自由電子レーザー(XFEL)を用いたシリアル・フェムト秒結晶構造解析(SFX)を実施、20°Cと4°Cで回折データを収集、双方とも1.8 Å分解能で構造決定した。4°C測定の方がデータの質が若干よく、更にサンプルの保管や移動がたやすく、脂質の粘性が大幅に上昇することにより、スムースなサンプル供給が実現できるという、運用上の優れた側面も明らかとなった。一方、EROCOC17+4 /水二成分系の物性をSAXS, WAXS, DSC, FCS等を用いて検証した結果、1) EROCOC17+4は少なくとも -20 ~ +60°Cの広い温度範囲で疎水鎖が液体状態を保つ、2) MOは17°C以下で結晶性ラメラ相に相転移するのに対しキュービック相が少なくとも1°Cまで安定、3) 粘性がMOに比べ2~3倍高い、等が示された。IPCLは従来のMAGとは異なる特性をもつ脂質であることが明らかとなり、低温での結晶化や回折データ測定に適した特性が裏付けられた。
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